第六章:はだかの王様

王の姿が広場に現れたとき、

大臣たちは先回りして叫び声を上げていました。

「道を開けよ! 愚か者には見えぬ衣をまとわれた、陛下のお通りぞ!」


「おお、なんという神々しさ……! これぞ天の恵み、知恵と徳の結晶!」

「見える、見えるぞ! 我が目には、この上なく美しい布が――!」

王の前を歩く彼らは、我先にと“見えぬ衣”を称え、

手を取り合って嘘を広めていました。


王城へと続く街道には、数えきれぬほどの民が詰めかけていました。


王の姿を見た民の多くが、戸惑いの目を向けながらも口々に言葉を発します。

「す、すごい衣だな……さすが王様だ……!」

「う、うん、見える……確かに、見えるぞ……!」


――自分は愚か者ではない。

その証明のために、皆言葉を絞り出すように口にしていました。


だが、王の目には、その声の奥にひそむ「恐れ」がはっきりと見えていました。


(なぜだ……なぜ、誰も本当の声を上げぬ……

 本当に、誰一人として……大臣たちに逆らえぬほど、心まで縛られているのか?)


王の足取りが一瞬止まりかけた、そのとき


「王様、裸だ!」


澄んだ幼い子どもの声が響きました。


「王様、寒いんじゃない? 風邪ひいちゃうよ! 

 ねぇ、ママ、王様に教えてあげてよ!」


広場が静まりかえり、周囲の空気が凍りついたようでした。

母親は慌てて口をふさごうとしますが、

子どもは心配そうに王を見つめていました。


王は「裸だ!」と口にした子どもに歩み寄り、微笑みながら

「そうか…私は裸か…」

と微笑みながら、子どもの頭を撫でました。





続く~第七章へ~




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