第五章:虚栄の広間
「……王様、本当に、良いのですか?」
広間の奥、錦の幕の向こうで、詐欺師の一人が顔をしかめて言いました。
「これでは、王様は……まるっきり、裸で街に出ることになりますよ?」
もう一人の詐欺師も、重々しい声で続けます。
「最初はただの商売…詐欺のつもりでした。
でも、こんなにも話が大きくなるとは……」
王は静かに微笑みました。
「よいのだ」
その横に控える老従者も、頷き、続けます。
「すでに、あの者たちは自らの言葉に呪縛されておる。
陛下が真実をさらすことでしか、この国の歪みは正せませぬ」
王は、真新しい“衣”――
何もない虚空の空気をまとうと立ち上がりました。
「では、行こう。
すでに“衣”は仕上がったのだ。皆にも見せてやらねばなるまい」
王の広間には、大臣と官僚たちが集められていました。
「いよいよ、“見えぬ衣”の御姿が拝めるぞ!」
「愚か者には見えないというが、我が目には必ず見えるはずだ!」
「見えぬなどと言えば、即座に地位を失いかねぬ……
いや、もちろん、見えるに決まっておるがな!」
ざわつく中、王が老従者と詐欺師二人を伴い、ゆっくりと姿を現しました。
その身体は――下着以外、何も着ていません。
一瞬、広間に静寂が訪れました。
王はその場に立ち止まり、ゆっくりと広間を見渡すと、口を開きました。
「私の姿が、どう映るかは問わぬ。
ただ――皆の正直さを、私は知りたい」
その声は穏やかでありながら、誰の耳にも鮮やかに届きました。
「見える者は、見えたままを語ればよい。
だが、見えぬのならば――
どうか、そのままを言ってほしい。
私は、あなたたちの“心”を見ているのだ」
王の言葉が、虚飾の広間に波紋のように広がっていきました。
ですが、その場にいた誰一人として、それを「裸」と言う者はいませんでした。
「おお……なんと美しい衣だ!」
「これぞまさしく、知恵と誠実の証!」
「まるで天上の絹……否、光そのもののようだ!」
「眩しくて……目がくらむようだ……!」
大臣たちは口々に賛辞を並べ立て、官僚たちは頭を垂れて称賛の声をあげ続けます。
その様子を、王はただ黙って見下ろしていました。
“私の言葉は届かなかったか…”
「それでは、戴冠式をはじめよう。街へ出るぞ」
王は静かに語り、街へと向かって歩き出します。
詐欺師の一人が、ぽつりとつぶやきました。
「これは……これは、真の王の覚悟だ」
民衆の前で、王はまさしく“裸の王様”となるのです。
ですが、それは欺瞞を切り裂く、
ただ一人の者だけがまとうことのできる――真実の衣でした。
続く~第六章へ~
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