第三章:暴かれし素顔

王宮の奥、「仕立て部屋」と称して与えられた一室。

そこには布も糸もなく、まっさらな机と数本の筆記具、

そして酒の瓶が転がっていました。


「いやはや、うまくいったなぁ……!」

痩せぎすの男が机に足を投げ出し、杯を煽りました。

「まさか本当に信じるとは……あの王様も、ちょろいもんだな」


無精髭の男もにやにや笑いながら、

手にした金貨をじゃらじゃらと鳴らし

「“愚か者には見えぬ服”だとよ。そんなもん、あるわけがねぇのにな!」

二人は大笑いしながら杯を重ねました。


ぎぃぃぃ…


と、扉が開く音がした次の瞬間、その笑い声はぴたりと止まりました。


開いた扉の向こうに、王と老従者が静かに立っていたのです。


「……お、王様……っ」

二人は酒瓶を投げ捨て、姿勢を正すも、手遅れでした。


「聞かせてもらったぞ」

と王が口を開きました。

「お前たちの“仕立て”の正体をな」


「ま、待ってください陛下!

 これは、その……遊び心と申しますか!冗談の延長でして……!」

「我らは…その…」


必死に弁解する二人に、王は問いかけました。

「――なぜ、こんな詐欺を働こうと思ったのだ?」


痩せた男がしばらく黙ったあと、ゆっくりと口を開きました。

「……俺たちは、元は町で服を作る職人でした。

 けど、税が重くて…。腕をふるう暇も、材料も買えない。

 盗みか、騙ししか……食っていく道が、ほかに残されていなかったんです。」

 

無精髭の男も続けます。

「真面目に働いても、税金の取り立てに泣くしかないのが現実で……

 だったら、笑って騙したほうがマシだ!と思ったんです…」

 

その言葉に、王はゆっくりとうなずきました。


「……やはりそうか。民は苦しんでいるのだな…

 お前たちのような者が生まれるのも、この国の“歪み”ゆえだ。

 大臣達は・・・多分、私の為と言いながら、私腹を肥やしているだけだ。

 民の生活の事など、本気で考えてはおらぬ。

 この国の仕組みを変えなければいけないのだ・・・

 親の仕事を子が継ぐ。それは、かつては理にかなっていたのだろう……

 だが今は…民を第一に考えねばならぬ政には広い視野が必要だ。

 世襲で政を行ってきた歪みが、もう耐えられぬ所まで来ているのだ…」


老従者が静かに頷きました。

「陛下は、民の苦しみに心を痛めておられます。

 しかし、大臣たちは“平穏”しか報告しない。

 陛下が真実を知る術が、今まではなかったのです」


「だからこそ――私は、お前たちの“嘘”に乗ることにしようと思う」

 王は一歩、二人に近づき続けました。


「私は、お前たちの偽りの衣を利用しようと思っている。

 私のもとに集う者たちが、真実を語るのか、

 あるいは偽りに染まっているのか……見極めるためにな」


「そんな……俺たちの嘘を、陛下は……?」

「お前たちの嘘は、“この国の真実”を映す鏡になるやもしれぬのだ」


しばしの沈黙の後、痩せた男が言いました。

「……陛下、あんた、本当に王様かよ」

無精髭の男も、ぽつりと呟きました。

「王様なんて……ただの飾りだと思ってた。けど、あんたは…」


二人は顔を見合わせ、深く頭を下げました。

「……わかりました。やりましょう。

 王様の“賭け”に、俺たちも乗ります」


王は静かに微笑みました。


こうして、王と詐欺師たち、そして老従者による

“見えぬ衣”計画が動き出しました。


それは、国を覆う偽りを暴き出すための――静かな革命の幕開けであったのです。





続く~第四章へ~





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