第20話 未可子の想いとアルベルトの覚悟

「そうか、ユウスケのことをベルトロス派に引き込もうと…」


 ここは騎士団の宿舎の中、アルベルトさんの部屋だ。アルベルトさん、イザベラさん、俺、未可子でテーブルを囲む。


 北条さんはソファの上で眠っている。


 テーブルの上にはハーブティーが人数分淹れられている。アルベルトさんが淹れてくれたものだ。


 事のあらましを伝えるとアルベルトさんは溜息を吐く。

 

 俺達と別れた後、イザベラさんはどうしても俺達の事が気になってポートカルネ付近からアルベルトさんと共にサイラムに戻ってきた。


 そこで1人でトボトボと歩く未可子に行き会い事情を知ると3人で俺と北条さんを助けに駆けつけてくれたのだった。


「これではっきりしたね。サイラム国がおかしくなったのは教会とその覆面男のせいだ」


 イザベラさんが拳を握りしめる。

 アルベルトさんはイザベラさんの言葉に頷く。


「そうだな。アリダ草に関しても同じだろう…それに関しては明日私が現場に行ってみよう…」


「とにかく疲れただろう。今日は休め。部屋まで送ろう」


 アルベルトさんは立ち上がり北条さんを背負うと館まで連れて行ってくれた。



 翌朝目が覚めると酷い頭痛に襲われる。アリダ草の後遺症だろうか?同時にアリダ草の煙に巻かれてからイザベラさんと未可子に助けてもらうまでの記憶が朧気だ。というよりほぼ覚えていない。


 部屋を出るとちょうど未可子が部屋から出てきた。


「あ…鈴木君…大丈夫?」


「あっ…あぁ…大丈夫。ただ、どうも記憶が曖昧な部分があって…」


「そうなんだ?北条さんも体調悪そうで、昨日のことあんまり覚えてないってさ…」


「そ…そうか…」


「うん…」


 俺と未可子の間に気まずい空気が流れる。


「あのさ…」


 俺は意を決して口を開く。


「昨日…本当にごめん。本当に酷い事を言った」


 俺は頭を深くおろして謝罪する。


 昨日俺は許されない言葉を未可子に言い放った。謝罪したとしても受け入れて貰えないかもしれない。それでも、俺は謝ることしかできなかった。


「…。もう…鈴木君はいつでもそうなんだから…好きな人の事になると周りが見えなくなる…」


 未可子は一つ溜息を吐くとそう言って笑った。

 未可子の言葉の意味は良く分からなかったが、とにかく許してくれたようだ。


「でも約束して?これからは1人で危ないところに行かないで。お願い」


 未可子の真剣な表情に俺は黙って頷いた。


 未可子と連れ立って食堂に降りてみるとそこには王様がいた。


「おぉ!英雄御一行のお二人ではないか…つかぬことを聞くがターナーを見なかったかな?」


 一昨日の出来事など無かったかのように気さくに話しかけてくる王様に少し戸惑う。

 もしかしたらアリダ草の影響で記憶が無くなっているのかもしれない。


「いえ、見かけませんが…」


 俺の代わりに未可子が答えると王様は頷いて何処かへ行ってしまった。


 食堂でパンを食べてから街に出ようとすると玄関で外から入ってきたターナーと会う。


 ターナーは扉を開けるのに腕を不自然な方向にひねっていた。


 左手で開ければ簡単に開けられるのにわざわざ遠い方の右手でドアを押さえている。


「王様が探してましたよ」


 未可子が声をかけるとターナーは顔だけをこちらに向ける。


 その表情がとても険しい。睨みつけるように俺達を見ている。

 しかしその表情は一瞬で、すぐに慇懃な笑顔に戻る。


「ありがとうございます、すぐに向かいます」


 ターナーはこちらに身体を向き直り深々と一礼すると階段を上がっていった。


 普段であればあれこれ探りを入れてくるターナーがそそくさと階段を上がっていく姿に得体の知れない違和感を覚える。


「なんか様子が変だったね」


 未可子も俺と同じことを感じたらしい。ターナーに対する警戒心は常に持つようにした方が良さそうだ。


 街に出て未可子と肩を並べて歩く。


「ねぇ。鈴木君って夢を見たりする?」


 未可子が明日の天気を確認するかのように問いかけてくる。


「夢?うーん。まぁ、人並みには見るよ」


「最近、変な夢見る?」


「どうだろうな。夢って大概変だろう?」


 俺は何となく最近見る夢の事を誰かに話すのが気恥ずかしくてはぐらかしてしまう。


「そっか…」


「何だよ。未可子は変な夢見るのか?」


 逆に俺が問いかけると未可子は俺の顔をじっと見てから口を開く。


「変な…っていうか、昔の事を夢で見るよ」


「昔って?あれか?未可子が小1の時の遠足でおやつ忘れて大泣きした時のことか?」


「…ふふ…そうかもね。ただ、あれは私が忘れたんじゃなくて悠介が私のおやつを行きのバスで全部食べちゃったんだよ」


 未可子は少し笑いながら俺を睨みつける。とんだ藪蛇だ。


「おっ!?あれはアルベルトさん達じゃないか?」


「こら!誤魔化すな!」


 未可子は俺の肩を軽く叩く。

 前方から馬に乗ったアルベルトさんが部下と思しき3騎とともに向かってくる。


「ユウスケ!ミカコ!丁度良かった。これから行こうとしていた所だ」


 アルベルトさんは馬を降りて道端に腰を降ろす。

 俺と未可子もアルベルトさんと共に座る。


「結論から言えばやはりあそこはアリダ草の栽培畑だった。辺りには魔獣が放たれていたがどうにか証拠を持ち帰れた…」


 アルベルトさんは懐から採取した植物を取り出し俺達に見せる。


「これが?」


「あぁ。アリダ草だ…念の為ユウスケにも預けておく。重要な証拠品だくれぐれも大切に扱ってくれよ」


 俺はそれを受け取ると頷いてポケットに仕舞う。


「とにかく。アリダ草の栽培が帝国に知られたらこの国は取り潰されてしまう…こんな危険な事をする教会とは早々に縁を切るよう王様に直談判して来ようと思う」


 アルベルトさんは立ち上がり力強く拳を握る。


「待ってくださいアルベルトさん!王様もアリダ草の事は知っている筈です!正面から批判をしてはアルベルトさんの立場が危うくなるんじゃ…」


 馬に乗るアルベルトさんを慌てて呼び止める。


「私の立場などどうでもいいのだ。王と、この国の未来が良くなるのであればな…」


 アルベルトさんは馬上から微笑む。


「でも…」


「だからこそ、証拠品をユウスケ、そなたに預けた。私に何かあれば…この国を…よろしく頼む」


 俺の言葉を遮ってアルベルトさんは馬上で頭を下げると城に向かって馬を走らせ行ってしまった。

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