第19話 教会戦闘

「どうしたの?鈴木君」


 訝しむ未可子に紙を渡す。


「…!?そんな…」


 一読して顔色を変える未可子。


「とにかく教会へ行ってくる…」


「ダメだよ!危ないよ!絶対に罠がしかけてある!」


 未可子は俺の腕をぎゅっと掴む。


「北条さんの方がもっと危ない」


「そうだけど、ちゃんと準備をして、あとアルベルトさんとかターナーさんに相談してから…」


「そんなことしている間に北条さんの身に何かあったらどうするんだよ!」


「…でも、鈴木君に危険が及ぶのは私に許容できない。それに鈴木君に何かあったら北条さんはどっちみち助からない…」


「助からないってなんだよ!どういう意味だよ!そうか、わかった。未可子は北条さんが助からなければ良いなと思ってるんだろ?」


「…何てことを…そんな筈無いでしょう?」


「いや、そうだ。北条さんがいなくなれば未可子は女子一人だからな。ちやほやされるって思ってるんだ!」


「そんなんじゃない!」


「とにかく!俺は1人でも行くから!お前は勝手にしろ!」


 俺は未可子の腕を振り解き教会へと走り出す。



 教会に到着する。人の気配はない。

 俺はゆっくりと教会の扉を開ける。


「あ!北条さん!」


 教会の床には幾何学的な模様が描かれ暗闇の中で水色に光っていた。

 その真上に北条さんが磔にされている。

 遠目に見る限りは怪我は無さそうだ。


 俺は北条さんに駆け寄る。

 俺の身長と同じくらいの磔台に両手両足を縛り付けられている北条さん。

 口元に手を近付けると吐息を感じる。少し安心する。気を失ってはいるが無事のようだ。


 俺は縄を解きにかかる。しかしきつく縛られていて捗らない。


 背後から魔獣の気配を感じる。


『ぐるるるるる』

 

 振り向くと案の定魔獣がこちらを見て唸り声をあげている。


 一刻も早く北条さんを連れて逃げ出したいのに…とイライラしながら呪文を唱える。


「マヌスフォス!」


 手に光の剣が出現…しない。


「…!?マヌスフォス!…え?…マヌスフォス!」


 何度やっても同じだ。ほんのりと手の平に光が生じるが剣の形にはならない。


「無駄だよ!鈴木悠介」


 くぐもった声が教会に響く。

 いつの間にいたのか正面の祭壇に覆面の教会幹部が立っている。


「その魔法陣の中に入ったが最後、魔法は使えない」


 幹部はくぐもった笑い声をたてる。


「そんな…まさか…マヌスフォス!」


 もう一度試しても手の平が光るだけだ。


「なっ!?魔法陣の中で魔法が具象化するだと!?」


 幹部が驚きの声をあげるが、俺はそれどころではない。このままでは俺も北条さんも魔獣にやられてしまう。


「魔法陣の中で魔法が具象化するなど…通常はありえない。魔法陣の描き方を間違えたか?…いや、そんなはずはない…」


 幹部はブツブツと呟いている。

 どうにか隙を見つけて逃げ出したいが、北条さんを縛り付けている縄はそう簡単に解けそうもない。


「…まぁいい…どうだ?鈴木悠介…ベルトロス派に改宗せんか?近々教会直属の騎士団を創設しようと思っていてな…お前をそこの騎士団長にしてやろう。どうだ?こんな名誉な事はないぞ?騎士団長になれば食事も女も家も全て思い通りだ」


 幹部はその長い両手を広げる。


「改宗はしないし、騎士団長にもならない。俺と北条さんを帰らせてくれ」


 俺の言葉に幹部は肩を落としで首を左右に振る。


「こちらの頼みは無碍に断るくせして自分の要求は通そうとするとは…世の中の理を何も理解していないようだ…残念だよ。自らの意思でこちらに来るならば良い思いをさせてやったのに…」



 幹部の言葉が終わると同時に教会内に煙が立ちこめる。

 この匂い…どこかで…。


 そこまで考えて思い至る。これは王様の部屋で嗅いだことのある匂い。つまりアリダ草の匂いだ。


 すでに教会内は煙で充満している。

 頭がぼうっとしてくる。


「ふ…ふふ。この薬草の力に抗える者などいない…貴様は廃人となり一生私の下僕になるのだ…」


 幹部が何か言っているが脳は理解をしない。


 今の私はただ、目の前で磔にされている美しい女を自分の物にしたいとしか考えられなくなっていた。


 女も煙の効果で目を覚ましたのか、トロンとした物欲しそうな目でこちらを見ている。


「あぁ…悠介くん…好きぃ…ゆうすけぇ…しゅきぃ…」


 女は甘ったるい声を出して私を誘う。


 私はゆっくり女に近付いていく。


「あはは…ゆうすけぇ…おねがぁい」


 女は唇をこちらにゆっくりと近付けて来る。私も唇を近付ける。


 あと少しで唇と唇が触れ合う。


「さぁ…最後のチャンスだ。改宗するか?すると誓えばこの手を離してやろう」


 背後から私の髪を鷲掴みにした男が偉そうに私に指図をする。


「お前はこの女を好きにできる、どうだ?悪くない条件だろう?」


 今の私には女のことしか考えられない。頷いておけば後はどうにでもなる…この女が欲しい。


 私が頷こうとしたその時だった。


『バタン』


「フランム!」


「ぐわっ!」


 教会の扉が大きな音をたてて開き、同時に炎が魔獣に襲いかかる。


 幹部の肩に矢が刺さる。


「その場を動くな!」


 アルベルトさんの大声が響く。


「ちっ!邪魔が入ったか…」


 幹部は素早く飛び退ると教会の奥、暗闇の中に姿を消した。


「フランム!」

「任せろ!」


 未可子が再度炎を撃ち出したタイミングでアルベルトさんが魔獣の首筋に剣を突き立てる。

 アルベルトさんがつけた傷から未可子の放った炎が魔獣の体内に入り込み、魔獣は断末魔の悲鳴をあげて倒れ込んだ。


「鈴木君!」

「大丈夫か?」


 未可子とイザベラさんが俺を助け起こす。


 アルベルトさんは北条さんを縛り付けている縄を解く。


「とにかくこの場を離れよう」


 アルベルトさんが北条さんを背負い。俺は未可子とイザベラさんに肩を貸されて教会から脱出した。

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