第15話 この国に蔓延するモノ
『ガギィン!』
大きな金属音が部屋に鳴り響く。
俺はその音を聞いてマルスの刃が自分に届いていないことを知り、ゆっくりと目を開ける。
「アルベルトさん!?」
目の前にはアルベルトさんのがっしりとした背中があった。
「ユウスケ…大事ないか?」
アルベルトさんはマルスの剣を籠手で受けたまま笑顔で振り返る。
「くっ!団長。邪魔をしないでくださいよ…」
マルスは顔を歪ませてアルベルトさんに抗議をする。
「マルスよ。剣の腕は上達せんな…ターナーとの政治家ごっこに精を出し過ぎなのではないか?」
アルベルトさんは籠手でマルスの剣を押し返す。
「…ふん。団長…その男を殺るのは王の命令です。邪魔だてしないで頂きたい。…どうしても邪魔をすると言うなら…」
マルスは剣先をこちらに突き出しそのまま姿勢を低くする。
「言うなら?」
アルベルトさんは無造作に立ったままだ。そもそもアルベルトさんは丸腰で帯剣していない。
「団長と言えど、殺すしかありません」
マルスが床を蹴る。突進力そのままにアルベルトさんに向かって鋭い突きを繰り出す。
「アルベルトさん!」
俺が悲鳴なような声をあげると同時に二人が交錯する。
アルベルトさんはマルスの突きを紙一重で躱し、カウンター気味にマルスの顎に掌底を叩き込んだ。
「ガッ!?」
マルスの口から声にならない声がこぼれ落ちる。
『ガラン…』
マルスはその場で棒立ちになり手から剣が床に落ちる。
全身の力が抜けていくのがここから見ていてもわかる。
膝から床に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「ふん…鍛錬が足りん」
アルベルトさんは姿勢を元に戻すと王様に向き直る。
「我が王よ。どうかこのユウスケの言葉に耳を傾けてくださいませ。戦などは誰も望んでおりませぬ…何卒…何卒!」
アルベルトさんはその場で床に片膝を立てて王様に深く礼をする。
「う…うるさい!アルベルト!貴様自分が何をしたかわかっているのか?」
王様は錯乱したように髪を振り乱し大声でアルベルトさんを叱責する。
「そもそも何故貴様がこの部屋にいる?勝手に入り込みおって!許さんぞ!」
「どいつもこいつも儂の邪魔ばかりしおる!許せん!儂は…わひは…おうらぞ…」
王様の呂律がまた急におかしくなる。
「あえ?く…くふりを…」
王様は慌てて麻薬の入った箱に近付こうとするが、足を滑らせて転んでしまう。
「あうえうお!はふけ…」
王様はその場で苦しみもがく。
「我が王!」
アルベルトさんは慌てて王様に駆け寄る。
「はふけへ…」
「我が王!?いかがした?」
「…」
「…死んじゃったんですか?」
アルベルトさんが王様の首筋を触り、口元に手を当てているのを見て俺も近付いてみる。
「いや、どうやら気を失っているだけだ…安心した」
アルベルトさんは心底ほっとしたように息を吐く。
「侍女を呼んできてくれ。隣の部屋にいるはずだ」
アルベルトさんは王様を仰向けにしてからソファの上にゆっくりと横たえた。
その場は侍女に任せて俺とアルベルトさんで気絶しているマルスを騎士団の控室に放り込んでその場は終わった。
アルベルトさんはターナーに事の次第を報告すると言って立ち去った。
俺はこの事を未可子に話しておこうと思って部屋に向かう。
そこには未可子だけではなく北条さんもいた。
「麻薬!?」
「そんな…でも…」
「うん…ありえるかも…」
王様の部屋であった出来事を話すと二人は驚きながらも納得して頷きあっていた。
「王様の目つきたまにおかしいことあったもん」
「うん。まさか麻薬とは思わなかったけど…」
「それで…鈴木君、どうするの?」
未可子が俺の目をじっと見てくる。
そう…俺はどうするべきなのか。これ以上この国に深入りしても危険しかない。でも宗教と麻薬に翻弄されるこの国をほったらかしにもできない。
「とにかく、本当に麻薬が教会から来ているのか?その出どころを探ってみよう」
「危険じゃない?」
俺の言葉に北条さんが不安げな表情をする。
「それに、もし出どころがわかったところでどうするの?」
未可子が重ねて疑問を口にする。
「それは、アルベルトさんに言えばどうにかしてくれると思う。あの人は本当にこの国と、王様のことを大切に思っている」
そう。アルベルトさんなら、どうにかしてくれる。
「…わかった。私達も手伝う。ね?佐藤さん?」
北条さんの言葉に未可子も頷く。
「ありがとう。まず教会の様子を探るところからはじめていこう」
こうして俺達の調査が始まった。
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