第13話 北条朱音の想い
「そういうわけで、俺はこの国を出るべきだと思うんだけど、皆はどうかな?」
俺はイザベラさんから聞いた話をしてからそう問いかける。
「…確かに…今の話を聞くとベルトロス派は少し怖いかも」
北条さんの呟きに未可子も頷く。
「一般市民を大切にしない国には、できればいたくないかな…」
未可子の言葉に今度は北条さんが頷いた。
「だよね…なら早いうちに…」
「ちょっと待て!」
俺がこの国を出る算段を話し合おうとすると高木が声をあげる。
「どうした?高木」
「いや、お前が言ってた話はよくわからねえけどさ、簡単に言うとベルトロス派に付いてた方が安全ってことだろ?」
「いや…そうとは…」
限らない。そう言おうとした俺の言葉は二階堂に遮られる。
「淳也の言う通りだ!実際、この国は俺達に良くしてくれてる。この国を裏切ってそのミレ何とか派に付いたってロクな事にならない…どころか帝国に盾つくことになるんだろ?俺は嫌だね」
二階堂の言葉に高木が頷いている。
「朱音だってよく考えてみろよ、この国を出て安全な場所なんて無いだろ?」
高木の言葉に北条さんが戸惑いの表情を浮かべる。
「どうなんだよ、朱音!俺が正しいと思うだろ?え?」
高木の強い言葉に北条さんは小さく頷く。
「よし!鈴木。多数決でこの国に残ることになった。どうしても出て行きたきゃお前1人で行けよな」
高木はそう言うと「さて、飯だ飯だ」と嬉しそうに二階堂と共に部屋を出ていった。
「鈴木君…私…ごめん…」
北条さんが謝ってくる。落ち込んでも可愛いなぁ。
「いや、仕方ないよ、俺の説得の仕方がよくなかった。また折を見て話そう」
俺の言葉に北条さんと未可子が頷く。
北条さんと未可子が部屋を出て行き、部屋には俺一人になる。
「ふぅ…」
息を吐きベッドに横になる。
何故人間同士が争わなければならないんだろうか。本当に神がいるのならば神はそれを望んでいるのだろうか?
俺1人でだけでもポートカルネに行こうか…いや、高木と二階堂はともかく北条さんを放ってはいけない…。
なんだかとても疲れた…。
目を閉じてイザベラさんに巻いてもらった包帯に触れる。
イザベラさん、無事にポートカルネにつけるかな?
………。
「お前たち!ソフィアをどこへやった!?」
「へへへ。しらねぇよ。なぁ?」
「ははは!あの可愛い子ちゃんだろ?どこだろうなぁ?」
「お前たち…頼む。知っているなら教えてくれ…」
「おうおう!泣き落としか?でもダメだ!俺達も魔法の力を手に入れるんだよ」
「魔法などでは人間は幸せになれない!冷静になってくれ!」
「俺達は冷静だぜ」
「おっ!そろそろか?」
「だな…」
「あぁ…ミレーヌ様…あれを…」
「メイリーンどうした…?あ…あれは!?ソフィア!?」
「おうおう。磔にされた美女か。たまらねぇな」
「あれをベルトロス様に捧げれば俺達は魔法の力を手に入れられるんだよな?」
「止めてくれ!頼む!ソフィアを返してくれ!」
「だから…ダメだって!」
「くっ!ソフィアを助けに行く!メイリーン手伝ってくれ」
「でも、河を渡った先の崖の上…間に合いません…」
「ならば私一人で行く!」
「ミレーヌ様!無茶です。あんなに…何千人にも取り囲まれているソフィア様を助けようなんて…」
「放っておけん!」
「ぎゃはは!美しい愛だな!」
「ちょうどこれからあんたの愛しい人はあの取り囲んでいる男達に辱めを受けるんだよ。ちょうどいい。ここからでも様子くらいはわかるんじゃねぇか?」
「な…何だと?そんなことを…本気か?」
「それがベルトロス様の要望だからな」
「あーあ。俺もあっちが良かったなぁ。この男の足止めなんて引き受けるんじゃなかったぜ」
「うぉおおおお!」
「なっ!?」
「何だ?」
「ミレーヌ様!いけません!怒りに我を忘れては…」
「うぁっ!?」
自分の声に驚いて目を覚ます。
いつの間にか眠ってしまったようだ。
窓の外はまだ完全に暗くなってはいない。眠っていたと言ってもせいぜい30分から1時間程度のことのようだ。
最近本当に良く夢を見る。
不思議な夢なんだけど断片的にしか覚えていない。
『コンコン』
部屋のドアがノックされる。
「はい」
俺は返事をしてドアを開ける。
そこには、浮かない顔の北条さんが立っていた。
「ほ…北条さん?どうしたの?」
「うん…ちょっと今話せるかな?」
「あぁ…うん、いいよ。あ、どこで話す?」
「ここでいい…」
「あっ。じゃあ、うん。どうぞ…」
ベッドのある部屋で北条さんと2人きりなんて…何だか緊張してしまう。
部屋に備え付けの椅子を北条さんに勧めて俺はベッドに腰掛ける。
「さっきは…本当にごめんね。鈴木君、せっかく皆のことを考えて言ってくれたのに」
…この国を出て行く話か。
「仕方ないよ、高木と二階堂がああ言ってる以上置いていくわけにもいかないしね、俺の言い方も良くなかったかもしれない」
俺がそう言っても北条さんの表情は暗い。
「あのね…実は私、高木君と付き合ってるんだ…」
「えっ!?」
北条さんの告白に俺は頭が真っ白になる。
まさか…北条さんが高木の奴なんかと…。
「驚いたよね。まだあんまりクラスの娘とかにも言ってなかったから…」
「あ…うん。そうなんだね」
俺は出来るだけ平静を装う。
「だけどさ。高木君たらこっちの世界に来てから…というよりこの国に来てから、この国の女の人に夢中になって全然私を大切にしてくれないんだよね」
「あ、そうなんだ…」
俺は何の話を聞かされてるんだろう。
「でもね、実はあんまりショックじゃなくて」
北条さんはいたずらっぽく笑う。
「何で?」
俺は礼儀として質問をする。
「だってさ…」
北条さんは上目遣いで俺を見てくる。
ん?どういう意味だ?
「私、鈴木君…悠介君の事…気になってるんだよね」
「そうなんだ…って!ええ!?」
「うふふ。うん…ねぇ。これからは『悠介君』って呼んでいいかな?」
北条さんは頬をピンク色に染めて俺から目を逸らす。
「えっ!?でも…」
「迷惑…かな?」
北条さんは悲しそうに目を伏せる。
迷惑なはずがない。高校に入学した時から俺はずっと北条さんが好きだったんだ。
けど北条さんはいつも大勢の友達に囲まれていて、俺なんかが話しかけることなんてできなかった。
遠くから北条さんを見つめることが俺の楽しみだったんだけど、一度だけ話をしたことがあった。
それは1年生の冬休みの前日のことだった。
終業式が終わって、俺は図書室に本を返却に行った。しかしそこに図書委員はおらずただ図書室のドアは空いていた。
そのまま本を置いて帰ってもよかったのだけれど『返却されていない』とか後でいちゃもんをつけられても面倒なので、図書委員が戻って来るまで待つことにした。
どうせトイレに行ってるとか友達とお喋りしているとかですぐ戻って来るだろうと思っていた。
「あれ?図書委員さんいないの?」
俺が椅子に座って本を読んでいると図書室のドアがガラリと開き声がする。
そちらに目をやるとそこには北条さんが立っていた。
「お?同じクラスの鈴木君…だよね?鈴木君って図書委員だっけ?」
「い…いや…違うよ」
「何だ、そっか。…困ったなぁ…この本返さなきゃなのに…」
「俺も本を返しに来たんだけど、仕方ないから待ってるんだよね」
「そうなんだね。どうしよっかな?…うーん仕方ない!私も待つか」
北条さんはそう言うと図書室に入ってきて少し離れた所の椅子に座る。
「あれ?その本!」
北条さんは身体を倒して俺の持っている本の表紙を見ようとする。
「え?」
俺は本を立てて表紙を見やすいようにする。
「やっぱり!その作家さんの小説面白いよね!」
北条さんが笑顔で顔を近づける。
ヤバっ。可愛い…。
「う、うん」
「あれは読んだ?あの実は猫が犯人だった話」
「完全犯罪株式会社?」
「そう!それ!面白かったよねぇ」
「うん、意外などんでん返しがたまらないよね」
「そうそう!あとはねぇ…」
北条さんは次から次へと好きな小説の話をして、その間もくるくると表情が変わる。
「はぁ〜なんか鈴木君のこと、ずっと昔から知ってるみたい…なんて、変だよね。高校に入ってはじめて知り合ったのにね」
北条さんは真面目な顔で俺の顔を覗き込んでくる。
俺は北条さんの言葉に驚いていた。全く同じ事を思っていたからだ。
その時、図書委員が来て、俺と北条さんはそれぞれ本を返却し、北条さんは俺に手を振って図書室を出ていってしまった。
それ以来2人で話すことはなかったが、北条さんの可愛らしい顔と好きな本が似てるところに惹かれて、俺の気持ちはその日から、憧れではなく恋心に変わった。
そんな北条さんが今目の前で俺のことが気になっているという。
「め、迷惑なわけないよ!俺も北条さんが…北条さんの事、気になってた…から」
さすがに「好きだ」と言う勇気は出なかった。
「本当?嬉しいな…悠介君…」
北条さんは嬉しそうに笑うと俺の手を取る。
「あ…」
俺の心臓が破裂しそうな程高鳴っている。
北条さんと手を繋いでしまっている…。
「ふふ…手、繋いじゃったね…」
北条さんは俺の顔を覗き込むようにしてからいたずらっぽく笑った。
『トントン』
『ガチャ』
「ゆうす…鈴木君!戦闘の時の魔法についてなん…だ…け…ど…」
ノックと同時に扉が開いて未可子が部屋に入ってくる。
手を繋いでいる俺と北条さんを見て固まる未可子。
北条さんも俺もそんな未可子を見て固まっている。
部屋の中の時間が停止する。
最初に動いたのは未可子だった。
「ごっ!ごめんなさい!」
『バタン!』
慌てて部屋を出て勢い良く扉を閉める未可子。
「びっ…くりしたね」
北条さんはそう言うと俺から手を離して、苦笑して立ち上がる。
「そうだね…びっくり」
俺も苦笑して立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻るね。話聞いてくれてありがと」
北条さんはそう言うとそそくさと部屋を出ていってしまった。
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