第4話 俺達英雄?騎士団への誘い

 その国は城壁に囲われていた。印象に残っているのはその城壁が比較的新しく見えたからだ。建物等と比べて明らかに土の色が新しい。


 女性に付いていくべきか迷ったが、あのまま森の中にいてもジリ貧だ。ならば多少のリスクは負ってでも文明がある場所に連れて行って貰ったほうが安心だと考えた。


 女性が城壁にある大きな門の前で門番に何かを告げると門が大きな音をたてて開く。女性は片手を上げてその門を通過するので俺達もそれに続いて門をくぐった。


 城門からまっすぐ続く大きな道の先に館が見える。あれがきっと王様のいる館だろう。

 

 夕方を過ぎて薄暗くなった街は閑散としていて人通りもまばらだった。

 冒険者とともに歩く制服姿の俺たちに目を向ける者はいない。


「やぁ!そなたたちが魔獣を倒したという英雄か!私はサイラム国の王、サイラム13世である」


 やけにテンションの高いおじさんが俺達を出迎える。

 この国の紋章なのだろうか、王様の被る王冠にも、身に付けるマントにも玉座の手すりにも双頭の蛇の紋章が付いていた。


「あの魔獣にはこの国も何度も襲われて難儀しておりました。それを討伐してくれるとは、まさに貴方たちは英雄です」


 王様の隣に控えるイケメンが落ち着いた声でそう声をかけてくる。年の頃は30前後か?微笑む姿はまさにイケメンだった。


「いやぁ!大したことありませんよ」

「俺達にかかればちょちょいのちょいです」


 高木と二階堂は調子に乗って大口を叩く。


「まさに英雄だな!なぁターナー?」

「はい。これで我が国も安泰です、我が王」


 ターナーと呼ばれたイケメンは慇懃に頭を下げる。執事のようなものなのだろう。


「さぁさぁ!何もありませんが、あちらの部屋に心ばかりのお礼を用意させて頂きました」


 ターナーが手を叩くと扉が開かれる。その扉の向こうにはテーブルがあり、そこには所狭しとご馳走が並べられていた。


「うっひょー!すげぇ!」


「俺腹ペコだったんだよ!!」


 高木と二階堂はテーブルに走り寄る。


「遠慮はいりませんよ。お連れ様もどうぞ」

 

 ターナーは俺達にも料理を勧めてくる。


「英雄色を好むと申しますからね。こういった物も用意させました」


 ターナーが再び手を叩くと奥の扉が開き様々なタイプの美女が入ってくる。


「どれでもお好きな物をお持ちください」


 ターナーの言葉に高木と二階堂は鼻の下を伸ばして女を物色し始める。


 おかしい。そう思った。いくらなんでもやり過ぎた。ご馳走まではまだわかる。しかし女をあてがうというのは獣を倒した褒美として過剰だ。


「女性のお連れ様には男を用意してもよろしいのですが…こちらの方がお好みですか?」


 ターナーが三度手を叩くと色とりどりのスイーツがテーブルの上に並べられる。

 

『わぁー♡』


 未可子も北条さんも思わず声をあげる。


 このターナーという男、かなり危険だ。相手の心を掌握することに長けている。そして掌握することに躊躇いがない。


「さぁ!どうぞ!宴の始まりです」


 ターナーが宣言すると同時に音楽が流れ始める。

 

 高木と二階堂は料理に片っ端から手を出して女を膝の上に乗せて笑っている。

 北条さんもケーキを一口頬張るとうっとりとした笑顔を浮かべる。未可子は俺の方を心配そうに見てくる。


「どうされました?召し上がらないのですか?」


 いつの間にか隣に立っていたターナーが穏やかに笑いかけてくる。


「いや…ははは。腹の調子が悪くて」


「それはいけない。薬を用意させましょう」


「いや!大丈夫!いつものやつなので、少しすれば収まります」


「そうですか?それにしても魔獣の討伐お見事でした。それで、どのように魔獣を討伐されたのですか?」


 穏やかだったターナーの表情が変わり鋭い視線を投げかけてくる。

 俺はそこで違和感を覚える。あの女冒険者から何も聞いていないのか?


「普通に弓矢や剣で倒しました」


 俺は試しに嘘をついてみる。


「ほう!物理攻撃で魔獣を?それはさぞ苦労なされたでしょう…魔法ならともかく…」


 ターナーは俺の目を覗き込むようにしてゆっくりと言う。


 俺は動きそうになる瞳をどうにか動かさずに答える。


「魔法?そんなものがあるんですか?」


「…まぁ、いいでしょう。では失礼します」


 ターナーはすっとぼける俺に何か言いたそうにしていたが一つ息を吐くと背を向けて歩き出した。


 あとで高木や二階堂、北条さんに口止めをしておかなければ。


 理由はわからないが女冒険者は魔法のことを報告していなかった。それが何を意味するのか、今のところは不明だ。


 ただ、一つわかったことは、この世界には魔法が存在する。しかし魔法が使えるというのはある程度特殊なことだということだ。


「やべぇ。やべぇ。」

「マジたまらん!」


 高木と二階堂は美女の胸に顔を埋めて興奮している。何ともおめでたい奴らだ。


「さて…そろそろ本題に入りましょうか。我が王よ」


 テーブルの上の料理も半分ほどになり、はしゃぎ疲れた高木と二階堂が大人しくなりはじめた頃、ターナーが、小さいがよく通る声でそう宣言した。


 王様はターナーに促され立ち上がる


「うむ。英雄たちよ、そなたらを我が国の騎士団として迎えよう。来る隣国、ポートカルネとの戦に備えてくれ」


 …やはりそう来たか。この異常な接待は俺達を逃さぬためのエサ。それを知らずに貪り食った奴らはどうするのか…。


「騎士団だってよ!」


「かっけくね?」


「英雄と言えば騎士だよな!」


「おう!俺達なら負け無しだぜ!」


 高木と二階堂はご満悦のようだ。が、俺は戦など真っ平だ。


 それにしても魔獣を一匹倒すというのがこの世界ではとてつもないことなんだな。…いや、それとも他に俺達に拘る理由があるのか?


「おぉ!若き戦士たちよ!力を貸してくれるか?」


「はい!任せてください!」


「勝ったらまたご褒美くれますか?」


「あぁ。勝てば褒美は思いのままだ」


「よっしゃ!」


「美女ゲットぉ!」


 王様とバカどもの間でどんどん話が進んでいる。俺はさっさとこんなところとおさらばしよう。この国はどこかおかしい気がする。


「おい!朱音!お前も騎士団に入るだろ?」


 高木が北条さんの腕を引っ張る。


「え?」


 北条さんは俺の方を見て戸惑った声をあげる。高木の奴は何故か北条さんに馴れ馴れしい。


「朱音。俺が入るんだからお前も入れよな」


 高木が高圧的に北条さんに言うと北条さんは小さく頷いた。


「よし!決まりだ!王様!俺達3人お世話になりまーす!」


 高木がはしゃいで手をあげる。二階堂もそれに倣って手をあげている。


「うむ!頼もしいぞ!これでポートカルネとの戦、勝ったも同然だ」


 王様は嬉しそうに頷く。


「もちろん…そちらのお二方も、ですね?」


 ターナーは俺と未可子に対して頷きかけてくる。王様も俺達をじっと見ている。


「俺達は…騎士団など恐れ多いお話です。俺達ごときが軽い気持ちで入って良いものか…もう少し考えさせてください。」


 俺の答えにターナーは鼻で笑ってから王様に頷く。王様はあからさまに溜息を吐いてから玉座を立ち上がると部屋を後にした。


 結局その夜は城の中に部屋を充てがわれ、そこで休むことになった。

 と、いっても一人部屋ではなく男3人と女2人の2部屋だ。

 高木と二階堂はベッドに横になるなりいびきをかいて眠りに落ちた。


 これからどうすべきか考える。この国は隣国を攻め取ることしか考えていない。

 

 この国と隣国にどういう経緯があって戦になったのかはわからないが、少なくとも俺達は戦に関わるべきではないだろう。


 しかし隣でいびきをかいている2人は飯を食らい女を弄び好き勝手をしていた。その上騎士団に入る約束までしてしまったのだからそう簡単に逃げることはできないだろう。


 であればこいつらのことは見捨てて俺未可子だけでこの国を出れば済む話だ。…が、北条さんのことはそう簡単に見捨てられない。

 

 何故だろう…戦に関わることと1人の女の子、冷静に天秤にかければ答えは明白なのに、どうしても北条さんを見捨てることはできない。


 となれば俺にできることは近くにいて、何かあったら守ることだけだ。この国から出るのは北条さんの安全が確保されてからだ。


 そこまで考えるとさすがに眠くなってきた。俺は布団を頭まで被る。すぐに睡魔が襲ってきて眠りに落ちた。

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