第3話 いきなり魔獣と戦闘開始!

 気が付くとそこは深い森の中だった。昼間なのだろうけれど生い茂った植物が空からの光を遮って薄暗い。植生から見てここが日本ではない事は確かだ。


 他の4人は既に立ち上がって辺りを窺っている。

 

 にしてもブレザー姿で森の中にいるというのも違和感がすごい。そして北条さんのスカートが短くて目のやり場に困る。


「くっそ…こんな所に飛ばしやがって。どうしろって言うんだよ」


「最悪だな。異世界転生なんて冗談だろ」


 高木と二階堂は相変わらず悪態をついている。この期に及んで悪態をついてもなにも変わらないだろうに。


『ぐるるる…』


 繁みの向こうから唸るような声が聞こえる。


「おい。何か言ったか?」


「いや?竜二だろ?」


「おい、冗談はやめろって」


 高木と二階堂はじりじりと後ずさる。


『グォオオン』


 今度ははっきりと獣の咆哮が聞こえる。内臓に響くような重低音だ。


「きゃあ」


 北条さんが尻もちをつく。恐らく腰を抜かしたのだろう。


 その瞬間に繁みから獣が飛び出してくる。デカい!クジラのような大きさだ。見た目はライオンに近いが透明なオーラを身に纏っている。


 獣は北条さんに向かって一直線に走り寄る。


「マヌスフォス!」


 俺は教えられた通りに右手の掌を上に向けて呪文を唱える。

 俺の右手に光の剣が現れる。


 俺は光の剣を両手で握り北条さんと獣の間に立ち塞がる。


『グォオオウ!』

 

 獣は口を大きく開けて飛びかかってくる。俺は一瞬怯むが光の剣を横に薙ぐ。


『グォッ』


 獣は剣を避けるように後ろに跳ぶ。


「くっ。避けられた…」


 俺には剣術の心得がない。これでは勝てないか…。


「フランム!」

 

 その時横合いから呪文と共に炎が発生し獣に向かっていく。


『ギャウ!』


 獣が怯んで態勢を崩す。獣の意識が俺から炎の発生源である未可子に向かう。


 俺は一瞬の隙をついて獣の脇腹に光の剣を突き立てた。


『ギャウウウウウン』

 

 獣は断末魔の悲鳴を上げて横向きに倒れると、纏っていた透明なオーラが消えて完全に動かなくなった。


「やった…のか?」


 俺は荒い息を整えるために大きく息を吐く。


「な…何なんだよこれ」

「ヤバくね?これヤバくね?」


 高木と二階堂は遠巻きにこちらを見ている。未可子が北条さんを助け起こす。


 暫く監視していたが獣が再び動くことはなかった。


「おい!鈴木!その剣みたいなやつどうしたんだよ?」

「俺達にも教えろよ」

 

 高木と二階堂が近寄って来て言う。


「たぶん、これ固有スキルだから2人にはできないと思うよ。2人は説明聞いてなかったの?」


 俺は女の子から教えられた通りに手を動かし呪文を唱えただけだ。


「いいから!やってみるから教えろ」

「自分ばっかり良い格好しようとしやがって」


 高木と二階堂の憎まれ口に多少イライラしながらも、確かにこいつらが戦力になればこの先多少はマシな戦いができると思い、やり方を教える。


「マヌスフォス!」

「マヌスフォス!」


 しかしというべきか案の定というべきか、2人がいくら呪文を唱えても光の剣が彼らの手に現れることはなかった。


「あっれー?魔獣死んでるじゃん!」


 その時繁みを掻き分けて4人の人間が現れた。声をあげたのは先頭の女性のようだ。


 年の頃は23〜24だろうか?紫色のロングヘア、厚ぼったい唇の横にはホクロがある。タレ気味の目は長い睫毛が印象的だ。

 RPGに出てきそうな軽装鎧を身に纏っているが、ボディラインがくっきりと出ている。何と言うか、つまり…とても色っぽい女性だった。


 後に続くのは剣を持った男3人だ。


「これ、君たちがやったの?」


 女性が戸惑いの混じった目で見つめてくる。


「はい。そうです」


 俺が答えると女性は驚きを隠さずに声をあげる。


「うそー?魔獣だよ?騎士団でさえ手を焼いてたのに、君達が…ってかなんか変な格好だねぇ」


 女性は俺達の服装に興味を惹かれたようで俺に近寄ってきてしげしげと見る。


 女性が中腰になって俺のネクタイを観察するものだから胸の谷間が気になって仕方ない。


「そういえば、武器は?何で戦ったの?」


 丸腰の俺達を見て女性は当然の疑問を口にする。しかしこの人たちが何者かわからないのに魔法の事を口にするのはリスクが高い。どうしたものか…


「魔法ですよ!」

「そう魔法の剣と炎でやっつけてやりました!」


 高木と二階堂が自慢気に答える。…こいつらバカか。簡単に手の内さらしやがって…。


「魔法…?」


 案の定女性の警戒心が増した気がする。


「魔法ということはベルトロスの…まぁそれなら逆にいいのかな…」


 女性はぶつぶつと呟いている。


「よし。魔獣を倒すのはサイラム国王の悲願だったからね。君たちは英雄だ!案内するから国王に謁見しよう」


「おお!英雄だってよ!」

「これ、お礼とかもらえちゃうんじゃないの?いきなり大金持ちか?」


 女性は高木と二階堂の言葉に笑うと先に立って歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る