第2話 これが噂の異世界転生?

「ベルトロス。見てみろ、お前が人間に魔法を与えた結果がこれだ」


「おうおう。争ってるねぇ。予想通りだ。人間ってのは単純だねぇ」


「違う。見るべきところはそこではない。争いによって不利益を被るのは弱きものたちだ。子供や病人、年老いた者たちなどの悲痛な叫びが聞こえるだろう」


「はいはい。御高説どうも。そこまで言うなら、ミレーヌ、助けてやれよ」


「元よりそのつもりだ。私は人間界に降りるぞ。お前とはこれまでだ」


「なっ!?マジかよ?そしたら俺もお前も絶対神じゃいられなくなるぞ」


「ああ、構わない。私は人間界で人とともに生きる」


「けっ。馬鹿な奴だ。…勝手にしろ」


「さらばだベルトロス」


「ミレーヌ様…本当に行かれるのですか?」


「メイリーン。済まんな使徒のお前にも迷惑をかける…」


「迷惑だなんて…私はミレーヌ様が行く所、どこでも付いていきます」


「メイリーン。人間界に行けば悲しみや苦しみが待っているかもしれないよ?」


「はい…それでも。私はミレーヌ様に付いていきます」


「ありがとうメイリーン」




 眩しさで目を開く。また夢を見ていた?そういえば大きな音がして、その後…。


 俺は辺りを見回す。真白い光に包まれている。部屋?空間?とにかくだだっ広い場所だ。

 周りに4人倒れている。手近な1人を抱き起こす。


「高木?」


 高木淳也、同じクラスの陽キャだ。さっきまで下手くそな歌を歌っていた。確かサッカー部に所属していた。金髪に近い茶髪を中分けにしたキザな男だ。悔しい事に顔は整っている。


 もう一人の男は二階堂竜二。こいつも陽キャで高木の友人。こいつもサッカー部だ。茶色く染めた髪を短髪にして、整髪料でツンツンにしている。


 よりによってクラスの中でも苦手な男2人と一緒になってしまった。


 女子の一人は見ればわかる、未可子だ。まぁ隣に座ってたしな。

 もう一人は…と近付いて心臓が止まりそうになる。北条さんだ。北条さんが顔を歪ませる。俺は咄嗟に距離を取る。


「う…んっ…あれ?」


 北条さんが目を開ける。辺りをキョロキョロと見回してから俺と目を合わせる。


「鈴木君…?ここ…どこ?私たち…バスに乗ってて」


 北条さんも混乱しているようだ。実際問題ここがどこなのか、何故ここにいるのか俺にもさっぱりわからなかった。


 高木と二階堂と未可子も目を覚まし始める。皆似たような反応だ。


「さて。皆揃ったようじゃな!」


 突然声が響き渡る。いつの間にか目の前に杖を持った老人が立っていた。

 神様のような出で立ちだ。


「正解!儂が神じゃ」


 えっと…?頭イカれてるのか?


「何だよジジイ!神とか馬鹿じゃねぇの?てかここどこだよ!早く帰らせろよ!」


 高木が老人を怒鳴りつける。しかし老人は動じない。


「ほっほっほっ。元気が良いのぉ。これは期待が持てる」


 老人は嬉しそうに笑う。


「まぁ、説明無しではそれは混乱するじゃろ。これからの事を説明するからよぉく聞けよ?神は一度しか語らん。聞き逃したら終わりじゃぞ?」


 老人はニヤニヤしながら俺達を一人一人見てくる。


「うるせぇ!早く教えろジジイ!」


 二階堂が凄む。老人は表情を変えずに頷く。


「まず、お主らは皆死んだ」


 何てこと無いように老人が言う。


「はっ!?」

「えっ!?」


 俺も含めた全員がこのどちらかを口にする。それはそうだ。だって今生きてるじゃん。


「そして残念じゃが元の世界のあの世にはいけん」


 皆頭にハテナが浮かんでいる。俺も全然理解が追いつかない。


「何故ならお主らが死んだタイミングが悪かった。ちょうどここを担当してた神が邪神になって別の世界に具現化してしまってな…慌てて儂が後任に入ったのだが、その…」


「その?」

 

 言いにくそうにしている老人に未可子が先を促す。


「その…間に合わんかった」


 老人は笑いながら片手拝みをする。

 よくわらかないけどちょっと腹が立つ。


「ゴホン…それで、まぁ、せっかくだし違う世界に転生してもらおうかと思ってな。何、タダでとは言わん!ちゃんとそれぞれにスキルをつけてやる」


 老人はそう言うと手にした杖を揮う。すると、俺達一人一人の目の前に小学生くらいの女の子が現れた。


「こやつらの話をよく聞けよ。繰り返しはせんからな」


 老人の言葉が終わるのを待って女の子は一斉に喋りだす。


 しかし高木と二階堂は口々に騒ぎ出し、北条さんの腕を取り歩き回る。


「うるせー!何なんだよ!わけわかんねぇよ!」


「転生って!マンガじゃねぇんだよ!」


「ふざけんなよ!おい!朱音!そんな奴らの話聞くな、行くぞ!これぜってードッキリか何かだぜ」


「あの…でも…」


「ほら!付いてこいって」


「うわっなんだこれ。ここめちゃくちゃ狭いじゃねぇか」


「本当だ、全部行き止まりだ…どうやって出るんだこれ」


「くそっ…」


 歩き回ってもこのスペースから出ることができないとわかったのか、高木と二階堂はふてくされたように地面にあぐらをかく。


「ほっほっほっ。スキルの修得はできたかな?」

 

 老人が杖を揮うと女の子たちはその姿を消した。


「それでは…」


 老人は笑顔で口を開く。


「おい!俺達まだ話聞いてねぇよ!」


「もう1回出せ!」


「てめぇ自分勝手すぎるぞ!」


「そうだ!パワハラで訴えるからな!」


 高木と二階堂は老人の前に立ち塞がってすごむ。


「…を目指して頑張ってくれ」


 今老人が何か大切な事を言ったようだが、陽キャ達の怒鳴り声でよく聞こえなかった。


「すみません。もう一度お願いします」


 俺は手を挙げて言うが老人は聞こえないかのように無視をする。


「何。皆がスキルを修得できていればさほど難しい事ではない…それではさらばじゃ」


 老人はそう締めくくると俺達に向かって杖を揮う。その途端白い空間の底が抜けるように床がなくなり、俺達は落下を始めた。

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