第19話 お空にのぼる

 翌日、明らかに『泣き腫らしました』といわんばかりの瞼で、娘は研修に出かけた。


「なんか言われたら、酒飲んでうつ伏せで寝たとでも言っとく」


と、なんの心も笑いも籠ってない一言を残して。


 昼頃、新幹線に乗っているはずの娘に、あずきを空に送ったことをLINEすると、『わかった』とだけ返ってきた。


 急遽連絡した動物霊園。私はひとり、青空を上がっていく、あずきだったはずの煙に手を合わせた。御骨は腰の辺りが黒く変色していた。おそらくこの当たりに病巣があったのでしょう。とスタッフは言って、私と一緒に静かに泣いてくれた

 骨壷カバーは赤に金糸の刺繍の物にした。女の子だからではなく、あずきは赤がとても似合う子だったから。

 2日後、研修から帰宅した娘は、カバーごと骨壷を抱きしめて、あずきはやっぱり赤が似合うね。と呟いた。そうして、彼女はもう泣きはしなかったが、笑いもせず、研修先での話もしなかった。


 それから49日の間、娘は毎朝晩骨壷に挨拶していた。

 もちろんまめの事は変わらず可愛がっていたが、娘の口から、毎日のように彼とあずきに言っていた、『愛してる』の言葉が出なくなっていたことに私が気づいたのは、2週間ほど経ってからだった。


 あずきは、火葬してくださった霊園の合同墓地に入れる事にした。

いつも愛され、家族に代わる代わるうるさいくらいに話しかけられながら、おっとりした猫と暮らしていた彼女には、その方が賑やかでいいと思ったのだ。

娘はこのときも泣かなかった。ただ


「泣いたって戻ってこない。夢にも出てこない。恨んでるんでしょ?この家族の事。それでいい」


 合同墓地を立ち去る時、確かにそう言った。

 あずきが亡くなった日、冷たく固くなっていく四肢と、まだほんのり温もりを残したお腹、少しだけ出ていた体液とあずきの匂いの中で泣いた娘は、彼女の死に何を思っていたのだろう。

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