第17話 おんぶして

 ある日のこと。

 娘が仕事でおらず、休みの私がたまたまあずきの部屋を片付けていたら、足元に小さなゴツゴツしたものが当たった。下を見ると、珍しくあずきが起きて、4本の足でしっかり立ち、私を見あげているではないか。私は思わず悲鳴を上げた。


「あんた、そんなしっかり立てたの?!」


 驚く私に、あずきは顎を上げて得意顔だ。


「とりあえず…おやつ出そうか?」


 驚きのあまり、動き出そうと向きを変えたほんの一瞬の間…。私の肩に、以前より遥かに軽くなった、娘曰くの『リアルファー』が乗った。もう一度言う。私は向きを変えただけだ、屈んでなどいない。


「え???飛び上がったの⁈」


 痛みや病気の、悪い刺激になってはいけないと、意識的に小声であわあわする私の首と頬に頬ずりすると、満足したのか、あずきは来た時と同じように軽々と降り、座布団で丸くなった。まるでそれは元気な頃の彼女そのままで、そしてまるでー…

 私は、近い未来を打ち消すように頭を振って、この出来事をなんとなく誰にも伏せておくことにした。


 そんな事があって2週間。あずきは相変わらず伏せってはいたが、なんとか生きていた。娘は翌日から県外で2泊3日の仕事の研修で、あずきの事もあり、ここ3日程ぶうぶう言いながら出勤している。

 その日の私は、帰宅後にあずきの部屋で洗濯物を畳んでいた。あずきの病気が発覚してから、できるだけ、私か娘のどちらかがこの子の傍にいる。なんとなくそんな習慣ができていた。

 ふと、正座した脚の横にあずきの感触。視線を下ろして分かった。


 ‘その時’が近いのだと。

 

 その時私が咄嗟に感じたのは、やめて、まだだめ、逝ってはだめ!という、焦りとも悲しみとも…怒りともつかない感情だった。

「あずきちゃん、お願いもう少しがんばって!」


 未だに後悔して止まない言葉。何故当時、あれ以上頑張らせようとしたのだろう。

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