第15話 ちゅ〜ると平手打ち。

 その後、私たち家族は、草負け予防のために以前に増してあずきを外に出させない事と、楽をしたいからとまめと一緒に受診をさせない事を徹底するようになった。娘は、外に出られないあずきが退屈を凌げるようにと、天井まである突っ張り式のキャットタワ―を最初から最後までひとりで組み立て、電動ドライバー片手にドヤ顔を披露した。(流石に完成した物を起こすのは夫にやってもらった)

 猫のためなら、何でもやるんだなぁとびっくりするやら、めでたく高校生になったのだから、その調子で学業にも力を入れてほしいやら…。親としては複雑な心境だ。

まあ、制服のネクタイをねこじゃらし代わりに、あずきをキャットタワーに誘っているようじゃ、無理な話か。

そんな、相変わらずの日々の夕食時。


「これやりたい!」


 テレビに釘付けになった娘が指差したのは、とある猫用おやつのCM。細長いパウチ状の袋に入ったその商品1つを、2匹が顔を寄せて仲良く食べている姿だった。たしかに可愛い。でも


「そんなもん、喧嘩するいや〜」


 私がいうより早く、人間の食事に興味津々のまめの興味を、味や酒の入れてない蒸しささみをテーブルの端に置いて食べさせる事で逸らしていた母が、テレビにちらりと目をやって、方言独特の、気の抜けた口調で面倒そうに止めた。

 完全によかれと思ってささみをやっている母に、いや、それ食卓に美味いもんあるって覚えるだけだよとは勿論言えない…。


 それから3日後のこと。


 土曜日の午前中から、何やら夫に頼んで買い物に出かけていた娘が、帰ってくるなり


「何事も、やってみなきゃー、わっからない♩」


 おかしな節をつけながら、スマホ片手に階段を上がっていく。

反対の手には、いつ買ったのか、例の猫用おやつのパウチ。あの子、やる気か。そして撮る気か。

 しばらくすると案の定2階から、『あ、ちょ、順番、あげる、あげるって!』などと、大いに焦った娘の声が聞こえてきた。やっぱりなぁ、と呆れながら階段をあがった私の目に飛び込んできたのは…

 まめの左頬に、お得意の'爪を出さない'平手打ちをくらわせ、そのまま額をむぎゅ、と前足で押さえつけたあずきが、おやつを独占する姿だった。まめの『んぬぅ〜』という情けない声と、片手でおやつ、空いた手でスマホを構えた娘の最早諦めの引き笑い。


 本当にこいつら3人(1人と2匹)は…

 

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