第14話 知ってしまった恐怖…?
ここで、あずきが院長を恐がるようになったきっかけ、院長曰くの‘あの診察のとき’について話そう。私たち人間にとっては、まさかそんなことまで猫同士で教わってしまうとは思いもよらず、2匹は思った以上にコミュニケーションを取っているんだと感じた出来事だった。
まず私たちは、あずきの定期検診のついでに、少し時期は早かったがまめの検診もお願いすることにした。いちいち1匹ずつ受診に連れて行くのは面倒だからと、テスト期間中で学校が早帰りだった娘の力も借りて、2匹一緒に診察室まで連れて行ってしまったあの時の判断が、完全に間違えていたのだ…。
「まずは、まめちゃんから診ようか」
面倒なことは先に済ませてしまえとばかりの院長の言葉に、娘がキャリーの扉を開ける。案の定‘厄介で有名な猫’のまめは、キャリーの奥にうずくまって出てこないが、まあこれはいつもの事だ。娘は段々とキャリーの入り口が診察台に向くように角度をつけていき、ついに垂直になる頃、中で必死にペットシートに爪を立てていたまめは「んん〜」という不満げな声を上げて診察台に滑り落ちてくる。
さっさと抱き上げて出してしまえば?とも思うだろうが、そんなことをしようなら大暴れ、腕から抜け出し、診察室の床をへっぴり越しで歩き回って、私たち全員に不審の目を向けて、診察はおろかその後1時間は触らせてもれなくなるのだ。そんな事で、彼の体に極力触らずにキャリーから出すには、こうするしかなかった。だから、私達3人にはいつもの事のその光景を、隣に置いたキャリーからあずきがじっと見つめている事など、気にも留めなかった。
そこから先、触診をされるたびに唸り、聴診器に猫パンチを食らわせては娘に怒られるまめの様子も、あずきはただ息を殺すように静かに見つめていたのだが、能天気な私と娘はその様子を見ても、『おとなしくていい子だ』としか思わなかった。
そして、いざあずきの検診を…とキャリーを開けて初めてことの重大さに気がつくことになる。
いつもは自分から出てくるはずの彼女が、人間不審の猫よろしく、キャリーの最奥にうずくまって出てこないのだ。
「あずきちゃん?お〜い、どうしたの?」
娘が手を伸ばして引き出そうとすると、モッツァレラチーズのごとく、でろん、体を伸ばしてあずきが顔を出した。体に反して、後ろ足はキャリーの最奥で全力で踏ん張ったままで、『これから私に何をしようって言うの?』とでも言いたげな、不審な目で院長と娘を交互に睨む。私たちはそこでようやく気がついた。
彼女は静かに待っていたのではなく、キャリーケースの中から、まめの検診時の様子をじっと見ていて、ここは怖いことをされる場所だと思ってしまったのだ…。
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