第12話 脱走!そして草負け?

「おかーさーぁーんっ!」


 真夜中のドア開け事件から暫く。曇天や雨の日も増え、少し蒸し暑くなってきた頃。珍しくおかあ'さん'までついた娘の叫び声に、慌てて声のする方、'あの窓辺'の部屋に駆けつけると…。網戸に爪を引っ掛けて開けているまめと、初めて出会った庭を闊歩するあずき、おろおろする娘がいた。

 『呼んでも戻ってこないー!』と叫び、大泣きする娘。私は笑いとため息を噛み殺し、ドライフードを入れたあずきの皿をもって庭へ回った。


「あずきちゃーん」


 私の呼びかけに、当然のように彼女は振り向く。


「お腹空いてない?ご飯、ここで食べようよ」


 餌皿を地面に置き、コンコンと鳴らしてみせると、はぁ〜い♩と言わんばかりに鳴きながら駆け寄ってきた彼女を、餌皿の直前で、はい、確保。窓辺で一部始終を見ていた娘に手渡すと、泣きながら『クソ息子!網戸開けまで習得してんな!バカ娘!また野良になる気だったのかお前は!!』などという言葉と共に、バチン!と閉まる窓の音を聞きながら思う。


 …いつからあんたは、猫の母になったんだ?

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