第5話 初対面のち平手打ち

 そんな日々を過ごしながら、ようやく院長から『先住猫と対面OK』のお墨付きをもらったのを機に、これまで何度も、あずきがいる部屋に強行入室しようとするのを阻止し、それでも古い家特有の磨りガラス越しにぼんやりその姿を見せていた‘まめ’と、‘あずき’を初めて対面させることにした。

 はじめは、互いに攻撃する危険を考えてゲージ越しに短時間の対面をさせながら、徐々に慣らすのがいいかと思ったが、あずきもガラスの向こうを気にしているようなので、、いっそのことまめに私、あずきに娘がついて初回から生対面となった。

 まずは娘が‘あずき’をゲージから出し、ひとしきり部屋中をキャットウォークした頃合で、そっと体を押さえて座らせた。娘の合図を受けた私が、‘まめ’が入れるだけうかとの境の扉を開けてやる。てっきり駆け込んでいくかと覚悟していたが、これまではあれだけ中を気にしていたくせに、いざ扉が開くと『いいんですか?』というように腰を屈めておどおどし始めた‘まめ’が、2歩、3歩と部屋に歩みを進めた時…。


 しゅっ!と素早い何かがまめに向かってきた。…と思った瞬間、ぱん!だか、ぽん!だか、とにかく平仮名で表すのがしっくりくる、ちょっと柔らかさのある音が響く。そしてそのまま、何かは開いた扉をすり抜けていった。


 ‘お座り’の体勢でいたあずきの脇腹を支えていた娘は、そのままの体勢で瞬きをしている。その手に支えられているはずのあずきは、影も形もなかった。


「飛び出したの、すごい力で…」


 数秒の後、感情がぽん、と弾けたような声で、娘はぎこちなく廊下を指した。

ぽかんとする彼女と、恐らくさっきの音で前頭部〜眉間を叩かれたらしく、まだぎゅっと目を瞑っているまめ。ああ、すり抜けて行ったのはあずきか…とぼんやりと思っていると、ひと足先に現実に戻った娘が、ものすごい速さで廊下に駆け出して行った。

 それが合図のように、私の意識も現実に戻る。慌ててまめの頬を挟んでこちらを向かせると、そぅっと目を開けた彼の、『だれが叩いたんです?』と言わんばかりの無傷の間抜け顔と目が合った。


「それはお兄ちゃん(先住猫)のごはん!あなたはさっき食べましたー!」


 台所から聞こえてきた娘の声と、どうやら自分は無事だと悟ったのか、早速私の手から逃れてふんかふんかと部屋中を嗅ぎ回るまめに、私は脱力して、正座した膝に両手をついた。なんだかよくわからない笑いが込み上げてくる。とにかく何の確証もないが、この二匹は大丈夫だろう…と心から思った。

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