第4話 ここが、あたしのおうち(仮)
そんなこんなで、急ピッチで猫ゲージ(先住猫の子猫時代の物)の組み立てに、先住猫用の新しいキャリー、餌皿に水皿にトイレに、若猫向けご飯にと、帰宅途中から翌日は、私も娘も大忙しだった。
そんな中でも、ここまで来て急にあの子を迎えるのを渋った母へ、娘が言い放った
「そうやって、一時の気紛れで可哀想だっつって、構いたい時だけ構う奴らがいるから、中途半端に人の手がなきゃ生きられないようにされて、死んでく猫がいるんだよ!ババだって餌やったよね?責任持とうよ!!」
という怒鳴り声は、何年も経った今でも驚いている。
2日後―…。
病院から連絡を受けて、『えうちゃん』を引取りに行ったところ、幸いエイズ白血病その他は陰性。お腹に虫がいるので、出なくなるまで先住猫とは接触させるな、との診断をもらい、私たち親子は、院長と同じくらいのデレデレ顔で帰宅した。
一時生活場所は、介護のために2部屋分開け放ってあった祖父母の部屋となり、設置したゲージに入れられた‘えうちゃん’改め、娘から、先住猫の‘まめ’と合うようにと‘あずき’と名づけられたガリガリの猫は、すぐにゲージから出てきて娘の膝の上へ。ペロリと指を舐められ、首を伸ばして頬に鼻チューをされた娘の第一声は
「舌がザラザラしてない!薄い!小さい!」
だった。‘まめ’の舌はざらざらしているのに、‘あずき’のそれは薄くて柔らかいそうだ。くすぐったそうに首をすくめた娘の顔からは、それでも嬉しさがダダ漏れている。へらへら笑いながら、どこかの5歳児よろしく身を捩る姿は少々気持ち悪いが、とにかく、猫の舌にもいろいろなタイプ?があるらしい。
あずきは、父の介護の為だろうと、自分の世話の為だろうと、兎に角私たち家族が部屋に入ると、ゲージの扉を開けて!と大騒ぎする。そして、要望通り開けてもらっては、人の視線をたっぷり受けていることを自覚しているとしか思えない、堂々としたキャットウォークで部屋中を歩きまわった。人が部屋から出る為に、彼女をゲージに戻そうとしようものなら、後ろ足で立ち上がって脛に爪を立てたり、足元にまとわりついて歩くのを邪魔したり…と、とにかく人が部屋を出る事やゲージに戻されるのを嫌がった。
とはいえそれだけなら、邪魔半分嬉しさ半分といっただけで、特に何もなかったのだ。大騒ぎするその声が、初めの3日程はあの特徴ある嗄れ声だったのが、日に日に高く甘い声に変化している事に気づいた時、私たち家族は大いに戸惑った。
あだ名の由来になった、あの掠れて嗄れた声は何だったんだ…?
何はともあれ、この頃の我が家では、可愛らしい声で私たちに話しかけるようになったあずきの声と、廊下からドでかい鼻息と、あずきの声に応えるような『ん?んな?』というおかしな声が毎日聞こえていた。
それから二週間ほど、あずきは当時その部屋に介護用ベッドを置いて日中を過ごしていた父と共に、その部屋の住人(住猫?)となり、私たちが入るたびにゲージから出してもらっては、膝に乗ったり足元に擦り付いて甘えに甘え、時には父のベッドの足元で休憩して、順調に家族の懐に入り込んだ。
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