第4章 6.
6.
かくして、時系列は『ちゃこちゃこちゃーこ』こと、『長谷川』の救援を受けたところに行きつく。
薙刀を振り下ろす先にいるのは片腕が吹き飛ばされた盾とリボルバーの女――3丁目は9ミリの自動拳銃だからリボルバーの女か?――が1人。
『妨害装置』が働いている環境で安易に人を撃破していいはずはないと変なところで良識を発揮した『部長』は四肢をもぐところで終わらせることにした。
結果出来上がったのは両腕がなく、足も明らかに骨が粉砕されて明後日の方向にねじ曲がったミイラみたいにぐるぐる巻きガムテープの女。
なお、立派にグロ映像であり、自動編集A.I.はちゃんと全部モザイクにしてくれた。
それに気づいて、頭を抱えているカメラ担当の『オキタ』。爆笑する『関西』。
もうめんどくさいから最初っからスパッと切り倒してしまえばいいのにとか呟く『いちちゃん』。
「なんだこれ」
ついてきたTフラッシュのひとこと。
【スラコ号船長@シャイニング42みーや推し】
えっと、急に絵面がギャグになったんだが?
【てるまめ】
モザイクだらけだからグロですね!
【ハイテンション太郎】
やってること戦争状態だからな! こういうこともあるさ!
「いやー助かりました。ちょうどいいので、『妨害装置』壊すの手伝ってくれません?」
「はい、わかりました! どの辺にあるとかわかりますか?」
『長谷川』のお願いを聞いた『部長』は意気揚々と突撃を始める。行先は、土嚢やらドラム缶やらで防備体制が整えられたコンテナハウス。
その『部長』を追いかける3人。重機関銃の銃座より4人組を迎撃しようと射撃が始まる。
が、銃弾が彼らをとらえようとするその次の瞬間、それを邪魔するものがある。『オキタ』が操るカメラドローンだ。
銃座の人間がそれに一瞬気を取られた瞬間、『いちちゃん』の弓矢がその頭を撃ち抜く。銃座は一つではない。
だが、仲間が瞬間的にやられたのを見てそっちに視線を向けたのが失敗だった。その一瞬を見逃す『関西』と『部長』ではない。
『関西』は走りながら後ろに手を伸ばし、その掌の上に『部長』の靴底が乗り上げる。そして『関西』はそのまま投げる。
『アメリカ製改造:7.62ミリD.B.式アサルトライフル』。そんなアホの産物と薙刀を構える少女が宙を舞い、射撃。
「制圧!」
射撃で倒された2人目の銃座にそのまま着地し、薙刀片手に突貫。この異常事態に驚いた敵兵は対処する前に首を跳ねられた。
と、そんな部長を狙う狙撃者を『オキタ』の投げナイフがその側頭部に突き刺さる。
少し遅れて到着した『関西』が、ドラム缶の壁を乗り越え日本刀と45口径短機関銃をその手の中に入れ替えながら弾幕と日本刀の斬撃を交互に繰り出していく。
少し距離のある相手には弾幕を。
すかさず短機関銃を頭上にぶん投げて接近してきた奴を日本刀で一刀両断。そのまま落ちてきた短機関銃をキャッチして再び弾幕を形成。
攻防一体、中距離近距離スイッチの戦い方に手慣れているその『関西』の戦い方にライフルだけ構えた敵兵は日本刀で首を切られ、棍棒や剣を構えた敵は45口径拳銃弾の弾幕によって穴だらけにされていく。
「『オキタ』!」 「イエェア!」
『部長』の掛け声とともに『オキタ』が自分の武器である散弾銃を投げる。それに対して『部長』が自分の武器であるDBライフルを『オキタ』に向かって投げる。
武器の交換。目的は
「今――――」 「――甘い」
『部長』の射撃が止まったことを隙だと認識した奴の目の前にあるのは散弾銃を構えた『部長』の姿。
後ろで『オキタ』が『部長』のライフルのマガジン交換中。散弾銃で吹き飛ばされた敵兵をしり目に『部長』は散弾銃を空中に投げて薙刀でさらに奥へと突撃。
投げられた『オキタ』の散弾銃を『関西』がキャッチし、『オキタ』の方へと投げる。『オキタ』も『部長』のDBライフルを『関西』に投げ渡し、最後には『部長』に届く。
武器のリレーにより、絶え間なく射撃と斬撃が止まらない。
「クソが、何者だ!」
敵兵の1人が悪態をつきながら虎の子のロケット砲を取り出す。と、そのロケット砲に着弾するライフル弾。
爆破処理される敵兵とそれを見ているのはダンジョン用の電動アシストマウンテンバイクに乗ったまま、スコープアクセサリーを付けた『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』を構えた『いちちゃん』。
冒険部のほかの面々がダッドサイトの中、1人だけスコープのアクセサリーをつけている『いちちゃん』の精密射撃は冒険部トップだ。
狙撃銃ですらないそれで次々と敵兵を撃ち抜いていく。あらかた撃ち終えるとペダルを踏んでマウンテンバイクを操りほかの3人組への合流を目指す。
コンテナハウスの中は、薄暗く、そして狭かった。
意図的なのか、棚を増設して、わざと天井を低くしている。
「やっべ、カメラドローンがNOルームだ」
『オキタ』の謎口調が響き渡るくらい、防音材とは真逆の材質でわざわざ施工しているようで、『いちちゃん』はコンテナハウスの中に入った途端、タイヤの音が騒音となった。
「忍者除け?」
何やら歴史的建造物をイメージしているらしい『いちちゃん』を無視して、カメラドローンが侵入出来ない屋内での切り札、自撮り棒を取り出す。
それにカメラを起動させたスマホを取り付ければ完成だ。あとは、各人のアバターの機能としてのボディカメラ映像を組み合わせる。
……のだが、ボディカメラ映像はリアルタイムには取得できないからあとで編集するしかないなーとか『オキタ』は考えていたら、自撮り棒の先のスマホが低い天井にぶつかった。
「スマホォォオ――――――っ!!」
【ちゃこちゃこちゃーこ】
草
【田中正造Mk.3】
草はやすな、仕事しろ
【とらすとみー淡路島】
www
「あれ欲しい」
『イスラエル製:曲射銃器』を構えた敵が曲がり角から銃撃してきた。それに対いて、目を輝かせた『部長』がすぐそばの壁に自らのDBライフルの銃口を向ける。
「――まっ!」
『関西』が止める間もなく引き金を引かれ大量の7.62ミリのライフル弾が壁を穴ぼこだらけに変えていく。
所詮、コンテナハウスだ。何発ものライフル弾に耐える材質をそれも室内で使っているはずもなく、出来上がった大穴に『部長』飛び込む。
その後ろで、壁を破るために一体何発のライフル弾を消費したのかと『関西』が頭を抱えながらせめて少しだけでも金額を取り戻そうと『部長』の使用した薬莢を拾っている。
「そいつをよこせぇえ!!」
『イスラエル製:曲射銃器』を奪うためにわざわざ壁破りを実行したらしい『部長』の声が響く中、いつしか『関西』に限らず3人となった冒険部員たちが『部長』の通った後に転がる
薬莢を集めながら部屋の移動を始める。
「はい、わかっています専務。証拠は確かに全部処分いたしている最中です。税金対策から労務問題、裏帳簿から何から何までダンジョン内部で扱えばいざって時にたやすく処分しやすく、仮に問題視されてもダンジョンの無法地帯を理由にトカゲのしっぽ切が出来ます。
おまかせを! このために大陸の『傭兵企業』に高い金を払ってきたんです。大丈夫です」
一人の女性がそんなことをスマホ片手にしゃべっていた。もう片方の手は必死に記録端末を硫酸らしきものが詰まった水槽に投げ込んでいる。
ちなみにこの後、爆破予定らしく、手榴弾が用意されている。
女がいるのは『妨害装置』が稼働する部屋のすぐ直下に位置する隠し部屋的な地下。
小型コンテナを埋める形で用意されたその部屋はスライム培養層がすぐ近くにある関係上、空調がかかったかのように涼しかった。
それを活用して、ちょっとしたサーバールームにしていたのだが、それも急いで閉鎖せねばならない。
正規雇用社員であり、ダンジョン内部支社のいざって時の管理職であった女は慌てない。慌てたら仕事がグチャグチャになる。
「仕事は常に優雅に、素早く進めろ。これ、私のモットー」
通話の終わったスマホを置いてコーヒーを飲む。優雅さを維持するのも大変だと独り言をつぶやきつつ、そろそろ最後の記録端末を沈めねばならない。
そう思ってラックに乗せられた箱ごと硫酸の水槽に投げ込もうと立ち上がって――
「――へ?」
自撮り棒のついたスマホが天井から生えていた。
自撮り棒のついたスマホがこちらを見ていた。
自撮り棒のついたスマホが、そこに、あった。
いつから?
一瞬で動き出した頭、真っ青のなりながらも体は反射的に拳銃を構えて。
「はい、そこまで」
自撮り棒の向こう側から投げナイフが投げられ、拳銃が弾かれた。ついでに投げナイフにつけられたワイヤーがこちらの腕を見事に拘束する。
「めんどくさいですね」
仮にも女性だ。実際は単なるアバターだが、女性には女性をというわけで『いちちゃん』が下りてくる。
このままではいかない。証拠はいんめつせ――――
「――は?」
見ている風景が一回転する。二回転する。そして、三回転。三回転目で理解する。自分首だけになってる。
アバターであるが故の意識。今から死ぬが、それまでの極1秒以下の世界の出来事。
このあとリスポーンするからそれまでのゆうよじか――――
「――そういうの無いです」
『いちちゃん』が粒子状に溶けていく首と胴体に遠慮なくポーションを突き立てる。高級ポーションだ。
アバターにおける即死ダメージとは、頭部や心臓部の完全破壊だ。理屈の上ではまだ、即死ではない。
これから、アバターの構成情報の流出――つまり出血死――するのだが、それを無理やりふさぐ。
手足はつぶされ、自爆用の自爆ベストの起爆装置も壊され、しかし自決も出来ず、勝敗は決した。
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