第3章 6.


   6.

 素材工学の発展は50口径弾2~3発の直撃にも耐えうるボディーアーマーを実用化してしまった。そして、歩兵が固くなった。

固くなった歩兵を倒すために大口径兵器やロケット砲を歩兵が持ち出すようになった。当然馬鹿みたいに疲弊する。

だから、ボディーアーマーとセットで、歩兵用の軍用パワードスーツが発展した。それがインファイトフレームだ。


「インフレスーツを身に着けてる奴がいる! 警戒!」

役人連合は、敵の傭兵の中に1人、インファイトフレームで武装した何者かがいるのを見つけた。

こういうのを『安価』な手段で対応しようとした結果、『現代化刀剣類』と呼ばれるカテゴリの武器が誕生した。

尤もバカげた発想だと言われればその通りでしかないのだが、それでも生まれたカテゴリの武器はダンジョン時代において最良の武器として扱われた。

何しろ、銃火器と違って、弾薬費がかからないのだから。


「QE-V2だ!」  「なんですか? それ!」

「『黒山H.S.Z.』製の第2世代インフレスーツって意味だよ!!」

(『黒山H.S.Z.』って何だよ!?)

『川上』はそう思いつつ、研修通りに安全装置を解除して、短機関銃を撃ってみる。研修で何回か扱ったが、今一しっくりこない。

純粋に銃火器というものにおびえている自分がいる。

銃口の先にいるのは、4メートルほどの大きさの人型兵器。ロボットアニメに登場しそうな姿のインファイトフレームは、QE-V3と言われた奴だ。

素材工学の発展により50口径の直撃にも2~3発耐えうるボディーアーマーの開発は、歩兵に大口径兵器やロケット砲を使わないといけないという環境を誘発させた。

その結果生み出されたのが目の前の軍用パワードスーツ、インファイトフレームであり、現代化刀剣類であり、UGAV機械化歩兵だ。


「みてろ、『川上』。ああいうのはこうするんだ!」

手榴弾を投げる『長谷川』。手榴弾の爆発に合わせて、レイピア片手に飛び出す。

レイピアからはオレンジに輝くプラズマが噴き出し、その光り輝く刀身を長く長く変容させる。

手榴弾の爆発の中、特にダメージらしきものを確認できないインファイトフレームだが、それでも一瞬だけ反応が遅れた。


「『長谷川』さん!!」

しかし、それでも軍用パワードスーツとして歩兵用に設計されているそれの『アクティブ防御ADS』が作動し、肩からバードショットとシェルショットの散弾が2発同時発射される。

その散弾に巻き込まれたように見えた『長谷川』だが、致命傷は避けた。レイピアのプラズマの奔流が唸る様な音を出し、盾らしきものを形成しそれが散弾を焼き切った。

最もインファイトフレーム側にとってそれで十分だった。防御態勢を取った、つまり攻撃態勢に移るにはそれが一瞬程度であったとしても立派な隙であるから!!


「今ッ!!」

構えられた20ミリ機関砲。しかしそれが『長谷川』を吹き飛ばす前に――――日本刀の刀身がインファイトフレームの後ろから前へと生えた。

インファイトフレームの後ろにいるのは『国税』の腕章を付けた役人。装甲の薄い脇腹から高振動ブレードの日本刀――現代化刀剣類――を突き立て、インファイトフレームの腕が役人の頭をつかむ。そのまま押しつぶそうとして――

――『長谷川』のレイピアのプラズマがインファイトフレームの首筋当たりの装甲の薄い部分を貫いた。


「言ったろ。こうするんだって」

『長谷川』がそんなことをかっこつけながら言って、そんな彼を狙ったライフル射手を麻薬取締官の女性が『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』で撃ち抜いた。


「油断大敵です。まだ、気を抜かないで!」

「アッハイ、すいません」

さんざん先輩風を吹かせていた『長谷川』が怒鳴られているのを見ながら、『川上』は自分の短機関銃のマガジンが空になってるのをやっと自覚した。


「だ、い、じょうぶですか……」

か細い声。

崩落に巻き込まれた今回取り締まる対象のブラック企業の従業員のおじさんがこちらを心配そうに見ていた。

情けなくなった。


「『黒山H.S.Z.』のQE-303! 本国仕様の第3世代かよ!」

『長谷川』の目の前に現れる新たなインファイトフレーム。ついさっき撃破した輸出用の第2世代と違い、こいつは滅茶苦茶厄介な戦力だ。

大陸の陸軍メーカー『黒山H.S.Z.』のインファイトフレーム、本国仕様の第3世代、すなわち最近の流行り、ビーム兵器搭載を目指している軍用パワードスーツだ。


Tips:『黒山H.S.Z.』……中国の代表的な軍事メーカーであり、国有企業の一つ。

世界有数の兵器輸出企業でもあり、防衛製品、石油・鉱物資源、エンジニアリングから民間製品など多種多様な製品を販売している。

巨大コングロマリットであり、中国の輸出される兵器類やそれに類するパーツ類はここが出している。

西側メディアなどは不安定化への懸念、人権、不正な契約への懸念などを表明している。




「『川上』! 少し離れてろ!」

レイピアだけでは心もとない。懐の拳銃に意識を向ける。『アメリカ製:DB式45口径拳銃』だ。場所を選び至近距離からならいけるか? と。


「『長谷川』さん、近くの県警部隊に応援を要請しましたが、すぐには無理であると。それと、後で確認してください。『妨害装置』の稼働を確認しました」

最悪の知らせとともに、敵の数が増えた。

カイトシールドを持った女の傭兵が現れた。明らかに敵インファイトフレーム側の存在であることを誇示しているようにインフレスーツに寄りかかっている。

カイトシールドにリボルバー拳銃という装備の女傭兵の目線は厳しくこちらを見ている。油断も隙も無い。


(動力供給用ケーブルの護衛か?)

自由電子ビーム兵器はインファイトフレーム対策として急速に研究が進んでいる存在だ。とはいえ、まだまだ動力源の小型化に難儀しており車載用バッテリーよりでかい全個体電池式のバッテリーを1発使い捨てにしているのが状況だ。

ついでに冷却装置の小型化にも難儀しているので、実質的に2~3発撃てば終了である。

とはいえ、逆説的に言えばそれを前提にすれば問題なく使える程度には物になっていると言える。

車載用バッテリーより大きい全個体電池式のバッテリーが1つ装填され、それとは別にケーブルを通じて電力供給されている自由電子ビーム兵器を構えるインファイトフレームは、顔面がTを描くスリットのようなもので覆われ、そのスリットからわずかな光が漏れている。カメラ兼センサーの塊としての頭部ユニットのであるそれは

外部から視線などわかるはずないのに、見ているとはっきりとわかる。単なる感覚でしかないが、間違いなくこちらと目が合っている――――――――!


「――――ッ!」

目が合ったのは一瞬。でもその一瞬で十分だった。カイトシールドを構える女傭兵にとってそれで良かった。何しろ敵が呆けているのだから。

カイトシールド、それは主に11世紀の西欧で使われた盾の一種であり、一般的に水の雫を思わせる形状の物を膨らんでいる側を上にした盾だ。

足回りへの干渉を減らし、危険な上半身への攻撃を防ぐ。しかし下半身への守りも完全には捨てないというその形状は中世の騎士やオスマン帝国軍がよく使用したと言われている。

そんなカイトシールドと『アメリカ製:D.A.式45口径リボルバー』を右手に構えた女傭兵という特徴を持った傭兵とインフレスーツの組み合わせは一見ちぐはぐだ。


「くるぞぉ!!」

スリットの顔面がこちらを向いている。インファイトフレームが構える対物ライフルよりも一回り大きなライフルの姿形をした武器から小さな稼働音が聞こえる。

自由電子ビームが放たれた。それはまるで、視界を切り裂くレーザーブレードのよう。逃げる間も、防御に転じる間も与えない、絶対的な一撃。

唯一の救いはどうも精密性に問題があるらしい。すぐさま拡散し、有効射程は大きく見積もっても30メートル程度。

圧倒的な破壊力に対し、散会して対応すれば十分何の問題も――――


「――!」

淡い燐光が盾の表面を走り、まるで液体のように広がる。何をしている?


(まさか、カイトシールドが拡散された自由電子を回収している?)

答えは直後に出た。咄嗟の判断。鍾乳石を思わせる柱の影に隠れて、そのまま転がるように逃げた。それは正しかった。

柱は蒸発し、電荷が周囲の空気そのものを帯電させる。最初のインファイトフレームの超大型対ブルライフルもどきに比べればさらに威力、射程ともに弱体化している。

けれど弱体化しているだけで、自由電子ビーム兵器なのは変わらない。


「1発で数発分の働きかよ。ド畜生」

そして、空気の帯電を考えるに、さらに弱体化したビームを盾が発射する可能性はある。毎回弱体化するが、1発のビームが数発の弱体化ビームになる。

『現代化刀剣類』として作られたであろう、現代の『カイトシールド』はものすごい金と技術のかかった武装であった。

淡い燐光はまだ盾から漏れ出ている。さすがに何かしらの制限があるのか3発目は飛んでこない。


(今――!)

――『長谷川』が『アメリカ製:DB式45口径拳銃』を撃ちながら走る。そして、レイピアを握りしめる右腕を振ってその矛先をカイトシールドの女の顔面に向けて。

2発同時発射のの45ACP弾丸を盾で受け止め――盾から燐光が鱗粉が飛び散るように弾け空間に消えていく――同じく盾を最小の動きだけでレイピアの先端を弾く。

すかさず、カイトシールドの女は右手の『アメリカ製最新:D.A.式45口径リボルバー』の引き金を引いた。


(22口径じゃない! なら残り4発!)

カイトシールドの女はわざわざ手に入りやすい45ACP拳銃弾(45口径弾)を使うリボルバーを選択した。そのかいあって、威力の強い弾丸だが、当たり所さえ、注意すれば即死するわけじゃない。

だから、そのまま『長谷川』はアバターの性能を信じて突撃する。頭や心臓部に当たらなければ1発は致命打にならないから、そのまま!

西洋剣術、レイピアを使う技法には片手に短剣を持つことで攻撃、防御、牽制を同時にこなすものがあるが、それを『アメリカ製:D.B.式45口径拳銃』との組み合わせで戦うのが『長谷川』のスタイルだ。

『長谷川』の2本の銃身が並んだ拳銃から放たれる45口径弾とリボルバーの1本の銃身から放たれる同じく45ACP口径弾が交差する。

そして、2発同時発射のデメリット、命中精度の低下が現れる。『長谷川』のダブルバレルが解き放った2発は至近距離でありながら、最小の動きで回避され、リボルバーの放った1発は『長谷川』のレイピアを握る右肩を抉った。

その状況下で、『長谷川』は数える。残り3発。22口径なら8~10発入るリボルバーはあるが、基本的に6発だ。今ので3発が使われている。

レイピアを握る右肩が抉られるその中で、再び引き金を引く。ダブルバレルの解き放つ2発の45口径弾。こんな状態で放たれる弾丸など牽制でしかない。つまり当たらない。


「『長谷川』さん!」

声が聞こえた。すかさず頭を下げる。その直上、少し前まで『長谷川』の頭があった場所を通り過ぎるのは5.56ミリのライフル弾。

『国税庁』の腕章、役人連合として来ているのだ。1人で戦う意味はない。なお、『長谷川』の相棒の『川上』は弾幕に当たらないように小さく縮こまっている。

新人にはきつい現場だなと『長谷川』もぼんやりと自覚する。

自由電子ビームとして照射予定だった自由電子を用いた、空間防御。カイトシールドから広がる光が、ライフル弾を蒸散させる。


「!――」  「――予定外だったんだな!」

攻撃準備中に防御の為に盾の機能を使うのは想定していなかったのだろう。カイトシールドからは光が完全に消えている。回収した自由電子は使い切った。

『長谷川』のアバターのアーツ、『ポーション自動消費』が始まり、オート回復により右肩の治癒が始まる。

再び振るわれるレイピアを盾で受け止め、リボルバーの45口径弾が放たれる。

残り2発。『長谷川』のカウントは相手の攻撃力のカウント。しのぎ切れば勝利が目に見える。

そう信じて再度接近する。レイピアから伸びるプラズマの刀身とカイトシールドの磁気シールド効果が接触しプラズマが拡散、周囲を熱気で支配する。

ついでに、自動回復効果を信じて盾を蹴り上げる。

それだけで、カイトシールドが跳ね上がり、隙間が空く。ねじ込むようにダブルバレルの銃身を入れて引き金を引く。


「「!――――!?」」

2人とも被弾。リボルバーの残り2発。いや、今残り1発になった。2発の45口径弾を喰らったカイトシールドの女は1発あてただけでは満足しなかった。

自動回復が追い付かなくなり始める。

そして2人同時に蹴り技で双方距離を取ろうとする。蹴り合い。すかさず双方、引き金を引く。そしてリボルバーの6発がなくなった。

それに対して、『長谷川』の『アメリカ製:D.B.式45口径拳銃』は8発(正確には16発だが、引ける回数は変わらない)。2発の違いがある!


顔面に投げ捨てられたリボルバーがぶつかる。


引き金を引く。でもこんな有様じゃ当たらない。


2丁目の新しいリボルバーがカイトシールドの女の手にある。


引き金

     引く

        2人同時。


『長谷川』の弾丸、当たらない。女の弾丸は当たる。『長谷川』の拳銃、弾がない。女のリボルバー残り5発。


「伏せろ!」

『麻取』の女性捜査官が投げるスタングレネード。閃光と大音響が視界と聴覚を潰すことで一瞬の行動を奪う。

次の瞬間、それとは違う地響きが地面を揺らす。

自由電子ビーム兵器の砲身が爆発した。再び自由電子が拡散し、破壊を生んだが同じくらい破壊はそれを操るインファイトフレームにも打撃を与える。


「次!」

投げたスタングレネードとは別にグレネードランチャーを構えた『麻取』の女性が、次のグレネードを撃つ為に鍾乳石のような柱の陰に隠れる。

照射直前のビーム兵器にグレネードを直撃させるという神業をスタングレネードを投げながら行ったようだ。


「ッチ」

カイトシールドの女は、拡散された自由電子の回収を始める。それとは別に舌打ちをしながら、リボルバーを撃つ。牽制目的で一度に数発。

壊されたビーム兵器を投げ捨て、インファイトフレームが出すのは5.45ミリの2連装ガトリング。2本の円環連装銃身(ガトリング)が回りすさまじい弾幕が形成された。

専用のケースレス弾薬を使用することで、1個の専用マガジンで3000発を装填出来るそいつが形成した弾幕はもはや誰にも追従できない。

とはいえ、弾薬費と補給を考えると虎の子の切り札を切って、彼らは撤収を始める。ビーム兵器の喪失はとても痛いのだろう。


「ま、ま」  「『長谷川』さん! まず、直して!」

『川上』が声を上げる。自動回復が追い付かず、タブレットで見る『長谷川』のアバターのAPならびにHPは危険水域に入り始めている。

ポーションの自動消費による自動回復だと限度があるようで、直接患部にポーションを拳銃型注射で打ち込む。ついでにダクトテープでぐるぐる巻きにする。


(そんなんでいいのか)

『川上』はそんなことを思いながら、持ち込んだ弾薬が残り少ないことを報告する。そして、電波妨害により通信障害が出ていることも。


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