第10話 暴走リンゴと最後の収穫戦線 前編

 王都北部、果樹園地帯は壊滅寸前だった。


 大地を揺るがす轟音。空を裂く赤い閃光。

 木々は根こそぎ引き抜かれ、肥沃だった土は、ねじれた魔力で焼き焦がされていた。


 中心にそびえ立つのは——紅果の巨獣アップルベヒモス


 魔力で暴走したリンゴの木が異常進化し、ついには意思を持ち、自ら歩き出した存在。

 その巨体は城門ほどもあり、果実は爆発的な魔力を蓄えている。


「うわあああ! りんごが飛んでくるぞーーっ!!」


「魔力干渉領域、完全崩壊! 結界、機能しません!!」


「これ以上は耐えきれません! 撤退許可を……!」


「まだだ!回復班、急げッ!」


 現場は完全な戦場だった。


 王国騎士団の魔法防御も通じず、魔導院の結界も容易く破られた。


 そして——その戦場に、俺たちは飛び込んだ。



「ユウト様! あれが、リンゴの暴走体ですのね……!」


「やべぇ……完全に“果物”って次元じゃねぇな、あれは……!」


 俺は腰の鎌を握り、スキル【収穫適期】を発動する。


 ……見えた。中心部、リンゴの幹の奥深くに、“一瞬だけ光る黄金のコア”が。


「クラリス。やるしかない。今回は、正面突破だ!」


「ええ、わたくしの新型ジョウロ“マークIII”も魔力過熱済みですわ!」


 クラリスが背負っているのは、あのじょうろの進化版——《灼熱スプリンクラー・マークIII》


 そして、俺の手には——新たな武器。

 《農神の大鎌・烈果刃(レッカジン)加治屋名》。果樹特化、燃焼属性付与。


「いくぞおおおおおお!!」



 まずは第一波!


 リンゴの木から飛び出す無数の果実ミサイル!


 「クラリス! 高熱散布だッ!」


 「了解! 《圧縮蒸気・農法三号!!》」


 ドッゴォォォォン!!


 蒸気爆発がリンゴ弾を迎撃し、俺はその隙を縫って地を駆ける!


 「“枝腕”がくるわ、ユウト様!」


 「見えてる!!」


 暴れ狂う幹の枝がムチのように唸るが、俺のスキル【収穫適期】で隙間を瞬間ステップ!


俺は果実ミサイルの弾道を逆利用し、爆風で加速、敵の背中へ!


 「ここだ……! 一瞬だけ、実が開く瞬間がある!」


 スキル【収穫適期】が限界まで輝き——


 「今だ!!」


 俺の大鎌が、リンゴの幹を裂き、金色の“核”へと達する!


 ——だが!


ガキィィィーーーン!!


「なに……っ!? バリア!?」


 核は、自動防御機能で強固な魔力結界を展開していた。そしてすぐに、後方へと移動した。


「ユウト様、後方より魔力増幅中、きますわ!!」


 その瞬間、周囲の地面から——“苗”が生える。


 いや、それは苗じゃない。


「リンゴ?果樹兵か?! “リンゴ果実兵”が生まれてきやがった!」


 アップルベヒモスから落ちた果実が、地面に根を張り、リンゴの兵士に進化していく!


 果皮は甲冑のように固く、両手は鋭利な枝状の剣!


「クラリス、援護を!」


「こちらも対応しますわ! マークIII、過熱限界解除!」


 《ジュワワワワワ!ピシューーーン!》


 熱水がライフルのように、前方の果実兵を貫通する!


「スキル発動——【適期収穫】ッ!」


 果樹兵の胸元に一瞬光る“実の継ぎ目”。


 そこを一閃!


 ズバッ!!


 ——果実兵は爆ぜて蒸散した。


 それでもまだ、移動したコアに近づけない。むしろ幹を伸ばし、リンゴの大砲と化した果実を天に構える。


「……マズイ、撃ってくる……!」


 次の瞬間——


 《轟ッ!!!!》


 音速を超える果実弾が発射された。


 赤い閃光が空を裂き、王都方面へと向かう!

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