第9話 王都に現る、新たなる魔族“害虫王”! 作物を食い荒らす、最凶の天敵!

 品評会の熱も冷めやらぬ数日後――

 俺たちの農園に、最悪の報せが届いた。


「ユウト様、大変ですわ! 畑のキャベツが……!」


「……まさか」


 急いで畑に駆けつけると、そこには見るも無惨な光景が広がっていた。


 ——葉が喰われ、穴だらけ。

 ——実が黒く変色し、腐りかけている。

 ——何より、土の上に大量の……黒い虫。


「これは……普通の害虫じゃない。魔力を帯びてる……!」


 スキル【収穫適期】を使っても、作物の輝きが見えない。

 それほど深刻な“汚染”が進んでいる。


 そしてその時だった。空気がピリ、と変わった。


「……む? 香ばしい作物の香り……その隣に潜むのは、異質な作物の香りか……」


「誰だ!?」


 茂みの向こうから現れたのは――

 黒いマントに虫の羽根、顔はカマキリのように細長く、背中から六本の脚を生やした……人型の魔族。


「我が名は《害虫王ベルグ=バグロス》。魔王陛下の命により、王国農地の“完全駆除”に来た」


「駆除って、逆だろ!!」


 ついに現れた、農業の天敵にして最凶の侵略者!


「我ら“虫魔軍”は、根から葉から実から……お前たちの作物を一つ残らず食い尽くす!」


「やめろ、それだけはやめろ……!! それ、農家の心を一番折るヤツだからあああ!!」


「クックック……その絶望の顔、いいぞいいぞ」


 クラリスが、震える声で問う。


「どうしますの、ユウト様……。このままでは全ての作物が……!」


 俺は歯を食いしばり、拳を握りしめた。


「くっ!!……この前覚えた、あれを使うしかないな」


「まさか……あの、禁忌の魔法精霊農薬を!?」



 農薬。農家にとって最後の切り札。


 だがこの世界では“精霊農薬”と呼ばれる特別な魔法が必要で、使い方を誤れば作物にも人間にも毒となる。


「俺、あの禁断の魔道書を読んでから絶対に使うことはないって、思ってたんだ……。“精霊農薬”は、この怒りを抑えて、虫に哀れみの心を持たないとダメなんて、絶対に無理だろ!」


「ユウト様……それを、今ここで使うというのですか?」


「やるしかない……俺の農園、俺の畑……そしてクラリスのじゃがいもを守るために!」


「ユウト様……!」(キュン)


「……」


 二人は、魔族をおいてけぼりにし、変なテンションで魔方陣を構築し始めた。


 クラリスが《熱湯じょうろ・マークII》を用い魔方陣を書き始め、俺はスキル【収穫適期】で最適タイミングを見極める。


「いっけえええええええええ!!」


 完成したのは、淡く光る青い魔方陣。


 これぞ——《精霊農薬・ユウトスペシャル》!!



「くらえ、魂の防除……ッ!!」


 青白い光が辺りを包み込む!


「一斉散布!」


 瞬間、空中の虫たちがパチパチと光に弾かれ、土中の幼虫たちも静かに鎮まっていく。


「なに……!? 我が兵が出番も無く……!?たかが魔法の 一撃でぇぇぇぇぇ!!」


「“たかが”じゃねぇ……命を育てる者の、最後の手段だよ!」


 怒り狂ったベルグ=バグロスが襲いかかる。


 だが、俺は見えた。

 あの背中に——金色の輝き。


「……そこが、お前の“収穫適期”だな」


 農神の鎌が、閃光とともに敵の背を切り裂く!


 ——ズバァッ!!


「バ……バカな……我が虫王が……こんなノリで、ひと刈りされるとは……」


 ベルグ=バグロスは悲痛な顔で、塵となって消えていった。



 農園は静けさを取り戻した。


 倒れた作物の間を歩きながら、俺たちは新しい種を手に取る。


「ユウト様……わたくし、この畑に新しい作物を植えたいと思いますの」


「……ああ。俺もそう思ってた」


「次は……“花”を、育ててみませんか?」


 微笑むクラリスは、まるで春風のようだった。


(花を植えるか……畑に、そして人生にも)


——だがその時、王都からの急報が届く。


《北の果樹園に、“巨大化した果物”が暴走中!》


「……またかぁぁああああああああ!!!」


次回、第10話

「暴走リンゴと、愛の接ぎ木計画!?」

モンスター化した巨大フルーツに挑む農家と王女!

リンゴか? 愛か? ユウトとクラリス、さらに急接近!?

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