第11話 暴走リンゴと最後の収穫戦線 後編

 《轟ッ!!!!》


 音速で放たれた真紅の果実砲弾が、空を裂く。


 魔力の熱波が空気を歪ませ、王都の方角に向けて一直線に飛んでいく。


「まずい! 王都が——!」


「ユウト様、わたくしがやります!!」


 クラリスが飛び出す。背負っていた《灼熱スプリンクラー・マークIII》が展開し、回転式ノズルが空に向けてせり上がる。


「過熱蒸気散布展開——バリアモード、全開!!」


 彼女のスキル【気圧操作】が発動。次の瞬間、果樹園の空を覆い尽くすように、銀色の蒸気が炸裂した。


 空中で果実弾と蒸気障壁が激突。


《キュイイイイイイイィィィィィ!!ピシッ!》


「くっ!」


パリーーーーン!!

 

 空が裂け、真昼の空に虹が咲く。炸裂した果実の残骸が雨のように降る中、王都は——守られた。


「……ナイスだ、クラリス!」


「ええ、ただ魔力切れで、あと一発撃たれたら……もう、もちませんわ……!」


「上等だ……それまでに終わらせる。俺が、あいつを刈る!!」



 その瞬間。


 ——果樹の中枢部が変質する。


 幹が裂け、その中から現れたのは……


 巨大なリンゴ。そしてそこに、腕のような触手が生え、目のような器官が開く。


「我……は、目覚めたり……」


 アップルベヒモスの“核”が覚醒し、言葉を話し始めた。


「……意思があるのか!?」


「種より目覚めし我が存在は、“完全な果実”の理想形。人の手を離れ、大地の意志と魔の血脈にて育つ」


「……お前、何か詩的だな……魔王が創り出したのか?」


「否……魔王すら超え、我は育つ。収穫を拒み、腐敗と繁殖の循環へ……滅びの種を撒く者なり」


「……なるほどな。ならその種、俺が“刈る”!」


 スキル【収穫適期】を全力で発動!


 ベヒモスの全身をスキャンするように視認するが、その“実り”は見えない。あまりにも強すぎる魔力が干渉し、“適期”が霞んでいる。


「なにっ!?」


(やばい……適期が読めない……)


 だがその時。


「ユウト様……私も、お手伝いしますわ!」


 クラリスが俺の背に手を添える。


「え……?」


「残りの魔力で私が、流れを見ます! ユウト様は“地”を、私は“水”を読む! 農業は“共同作業”ですわ!!」


「……っ、ああ、そうだったな!」


 二人でスキルを重ねる。


 クラリスの水属性魔力と、俺のスキルが融合し、新たな力となる。


《コンビネーションスキル:適水調律》


 ベヒモスの体に流れる魔力の“逆流”が見えた。


「見えた……! 腹部下、そこに“成熟果核”が……!」


「今ですわ、ユウト様!!」


 俺は全力で大地を蹴る。


 幹に向けて跳躍し、手にした鎌が金色に輝く!


「刈らせてもらうぜ!! 地と水と、俺たちの誇りを懸けて!!」


「その程度の攻撃、魔王をも凌ぐ我には、効かぬわ!!」


アップルベヒモスの核が、バリアを展開する!


「一人では無理だったが二人なら!!」


《収穫奥義:双適の斬果》


 ——ズバアアアアアアアアアッッッ!!!!


 果実の核を、真っ二つに!!


「なん……だと……!グアーーーーーッ!!」


 断面から爆発的に広がる魔力。だがそれは怒りではなく、解放だった。


 腐敗の波動が止まり、幹が崩れ、ベヒモスの巨体がゆっくりと、まるで息を吐くように沈んでいく。


「……終わった、のか……」


「ええ……今度こそ、本当に……」



 翌日。


 果樹園跡には、新たな苗木が植えられていた。


 国中の農家たちが集まり、土を耕し、若木を育てていく。


「これは……?」


「“命の実り”ですわ。ベヒモスの残した最後の種……汚染されていない、清らかな種から育てた苗です」


「……そうか。ならきっと、良い果実が実るな」


 俺とクラリスは並んで立ち、夕陽を見上げる。


「ユウト様。あなたがいなければ、私は農業の喜びを知りませんでした」


「こっちのセリフだよ。クラリスがいたから、俺はこの畑を守れた」


「ふふ……ところで、王からまた手紙が来てましたの」


「え、また爵位? もういらんて!」


「いいえ、今回は——“農業者結婚特例法案”が可決されたというお知らせですわ」


「待って!? なにその法律!? しかも特例ってなに!?」


「つまり、王女と農家の結婚も、合法ですわ♡」


「それ! 完全にオチに来てるやつだろ!!!?」


 ——その年。


 王都には新しい品種のリンゴ《希望の果実・ユウト種》が登場し、勇者農家の物語はひとつの実りを迎えた。


 ~完~

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異世界でのんびり農家をしようとしたら、何故か勇者にされた!? カラスのカンヅメ @karasunokanzume

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