1話 カルテ1
時風クリニック。それは日本の何処かにあるという精神科を受け持つ病院。しかしその場所を知っているのは時風クリニックの関係者だけで患者や患者の家族は一切居場所を知らない。時風クリニックには4人の医師が在籍していて日本全国どこでも出向き治療を行う。今日もまた時風クリニックの医師達は患者の下に出向いていた。
依頼主は患者の両親で患者は高校2年生の少年だ。患者の名前は雛塚光。イジメにより不登校になってしまい普段の生活に支障が出ていてまともに今は外出も出来ないという。それで時風クリニックの情報をネットで見つけて依頼という形になった訳だ。
雛塚家は豪邸という程ではないが立派な一軒家で裕福そうではあったが家の中に入っただけで気持ちはいいものでないのがわかった。物凄く空気が澱み暗い雰囲気が出ていた。
「息子さんの部屋はどちらでしょうか?」
時風クリニックの院長であり主治医も務める青年時風颯汰が母親に聞いた。
「2階の階段を上がってすぐの部屋になります。ですが息子は恐らく誰とも会わないと思いますよ」
母親から諦めの混じった言葉を聞いて颯汰は直ぐに返答した。
「そうですか。困ったな治療はどうしても本人の許可が必要ですし本人が目の前にいないと出来ないからなぁ。まぁ試しに1回光君と話してみますよ」
そう言って颯汰は階段を登り光の部屋の扉を開けた。
「はじめまして光君。自分は時風クリニックというところから来た、医者です。今日は君の治療をする為に来たんだけど」
すると意外にも少年は目を輝かせて颯汰に話しかけてきた。
「時風クリニックってあのネットで有名な時風クリニック?トラウマとか精神的な事で生活に支障をきたした人を治療してくれるって言うあの時風クリニック?」
「そうだよ。でもね治療は本人の許可がないと出来ないんだ。だから何点か質問をさせてくれるかい?先ず一つ目これが1番重要なんだけど治療の時には僕と患者さん、つまり今回は光君なんだけど精神的に繋がっている状態にしないと治療は出来ないんだ。そして次に二つ目治療する際にトラウマとかそういった物になっている記憶を治療する訳だけどその際に大事な記憶が無くなってしまうかもしれない。それにこれがとても重要なんだけどもしかしたらその時期の記憶を纏めて消さないといけないかもしれなくなるかもしれないつまり。大事な家族や友人、思い出を全て失ってしまうかもしれない。つまり今までの記憶全て失ってしまうかもしれないがいいかい?それでも治療を希望するかい?今回の依頼者は君の親だけど決めるのは君自身だ!どうする君が治療を望まないのなら僕達時風クリニックは治療をしないで帰るよ」
光は迷う事なく答えた
「お願いします。もうこれ以上辛い思いで苦しみたくない。助けてください」
「わかりました。では治療を、手術を開始させていただきます。科戸、晴嵐、手術の準備だ。風樹お前は手術で被害が出ない様に結界を張った上で科戸と晴嵐の手術をしっかりみて学べ。それじゃあ光君、ベッドに横になって目を閉じて。」
光にそう言って颯汰は着ていた白衣を脱ぎ腰ポケットからカードを1枚取り出して光の頭の辺りに翳した。
「リンクスタート」
すると颯汰が徐々に輝き出して粒子になりその場から消えていく。そして次の瞬間には颯汰は学校の教室の様な場所にいた。そしてそこには学生服姿の光とそれを取り囲む様に同じ学生服を着た男子生徒や女子生徒がいた。そしてその生徒達の周りから紫色の瘴気が立ちこみはじめ徐々に形を作っていく。そして次にそこにいたのはサソリやヘビ、クモなどの姿をした怪物だった。
「まさかこれだけの数のビーストが心の中にいてここまで成長していたとは・・・光君、今までよく耐えてきたね。直ぐに片付けて助けるよ」
《ビースト》それは人の負の感情を糧に発生してそれを餌に徐々に徐々に成長していきその人物の心を破壊する怪物。時風クリニックの仕事はこのビーストを駆除して患者の心を安定させ元に戻すのが仕事だ。
「さて先ずは面倒なサソリから駆除を始めるとしますか。ウェポンメモリー召喚。タイプバトルハンマー」
颯汰はまたカードを使い呪文の様に唱える。するとそこには先程は存在しなかった大形のハンマーが颯汰の手に握られていた。そして颯汰はそれを軽々と持ちながら一瞬でサソリ型のビーストに間合いを詰めてサソリ型ビーストの胴体に叩きつける。するとサソリ型ビーストは一撃で消滅した。一方その頃現実世界でも紫色の瘴気が発生し始めてビーストが実体化した。こちらは幽霊の様な外見で半透明だが沢山出現した。それを見て科戸と晴嵐はそれぞれウェポンメモリーカードを取り出してそれぞれの得意武器である刀を実体化させた。そしてビーストに向かって科戸と晴嵐は次々にビーストを駆除をして全てのビーストを5分もしないうちに全て消滅させた。一方リンクしている颯汰の方の手術も間も無く終わろうとしていた。最後まで残っていたヘビの様な姿のビーストを消滅させたのだ。そして現実世界にいる科戸と通信をする。
「こっちのビーストは全て消滅させた。そっちは?」
「俺と晴嵐2人いてまだ終わってないと思う颯汰兄さん。こっちも全て消滅させたよ」
「了解した。じゃあ最後の仕上げをしようか」
そう言って颯汰は時風クリニックが患者に対して必ず行う祝詞を歌いトラウマとなっていた記憶を《封印》した。これによってもう患者はこの記憶を思い出すことはないしここからビーストが発生する事もなくなる。そして颯汰はまたカードを1枚取り出して今度は自分の額の辺りに翳すと現実世界に颯汰は戻ってきていた。
「光君、もう目を開けて大丈夫だよ。今までよく頑張ったね。これからまた光君は新しい人生を歩めるよ。もしまた似たような事があったら知り合いでも自分の事でもいいから僕達に教えてね。必ず治療しに行くから。それとこれはお母さんにも言っておくんだけど時風クリニックで治療を受けた人達が通っている学校があるからその学校に行く事をオススメするよ。それじゃあね」
そう言って颯汰を筆頭に科戸、晴嵐、風樹は光の部屋を出て同じ説明をしたのと治療に成功した事を伝えた。
「あの、治療費のほうは?」
「今回の患者様は未成年ですし学生さんですからお金はとらない事になっているんです。ですから必要ありません。それでは我々はこれで失礼させていただきますね」
そう言って時風クリニックの面々は雛塚家を後にして時風クリニックに戻ってきていた。そこはどう見ても神社の様にしか見えない建物でおおよそ病院だとは誰も思わないだろう。そして時風クリニックの裏にある時風家で食卓を囲みながら時風4兄弟は今日も仲良く食事をするのであった。
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