第8話 補遺
その後、陶子と浩介は今後の事について話し合った。
それなりに時間のかかる内容であった為、学校の前で解散した時にはすっかり夜になっていた。
陶子は「帰りの車中で話をすれば良い」と言ったが、浩介は頑なに拒否した。
この上何が出てくるか分からない話をしながら、運転に集中する自信が無い。
それが言い分だった。
どんなに彼女が「後は大した話は無い」と言っても、絶対に納得しなかった。
陶子とは、常識の基準点が違う気がする。
とんでもない話が飛び出し、結果運転を誤って、自分が心霊写真に撮られる立場になるなんて、冗談じゃない。
捕られるのは、もっとごめんだ。
「そうだ、関君もデジカメを買った方が良いわ。」
「そうなのかい? スマホ持ってるけど?」
「・・・普段から肌身離さず持ち歩き、あまつさえ顔に近づけて使用するようなものに、心霊写真を溜めておきたい?」
「・・・ひょっとして、何か影響あるのかい?」
「霊感が付けば、影響出るかもしれないわね。」
「・・・成程。」
二階で感じた不快感を思い出す。
やはり、運転中にする話じゃなかった。
結局「打ち合わせ」は星野写真館で行われた。
それから数カ月後。
浩介はサークル部屋に居た。
ここで陶子と落ち合う事になっている。
彼女が見つけた廃屋に「撮影」に行く予定だ。
「おお、関君。」
不意に後ろから呼びかけられた。
会長だ。他にも数名会員がぞろぞろと室内に入って来る。
「あ、会長。お疲れ様です。」
「そろそろさ、次の活動の事、決めようかと思うんだ。」
「また心スポ行きます?」
「いや、今度はもう少しシックに百物語とかどうかなと思って。」
「はあ。」
「これから居酒屋で打ち合わせしようと思うんだけど、関君も参加してよ。」
「ああ、済みません。今日は予定があって。」
「ふ~ん・・・・・。」
会長は不意に神妙な表情になると、声を落とした。
「関君さ、間宮さんと付き合ってるの?」
浩介は驚いた表情を見せる。
「いや、最近二人でいる所良く見るし。そうなんじゃないのかなって。」
「ええ、まあ、そうですね。」
「やっぱり。」
浩介は照れ笑いを浮かべる。
旨く、浮かんでいると良いが。
陶子の取り決めの一つがこれだった。
二人が付き合っているのかと疑われたら、取り敢えず否定はしない。
否が応でも一緒に居る機会は多くなる。
事実がどうあれ、下手に否定するよりは肯定しておいた方が余計な追及を受ける可能性は減らせるだろう。
少なくとも怪しまれる事は無い、というのがその理由だ。
「浩介さん。」
入口から陶子が顔を覗かせる。
相変わらずの無表情だ。
「陶子・・・、さん。」
浩介がぎこちなく返す。
お互いを下の名前で呼ぶことも取り決めた事だ。
これは二人の関係性をミスリードさせる為の補強材料である。。
ただ、言い慣れない。
詰まる度、言い損なう度に陶子から冷たい視線が飛んでくる。
付き合ってる男にする顔じゃないし、向ける視線じゃないだろ。
浩介は彼女の無言の圧力を無視して、普段使いしているリュックを手に取った。
買ったばかりのデジカメが入っている事を確認する。
「じゃ会長、僕はこれで。」
「ああ、うん。お疲れさん。しかし意外だな。」
「何がですか?」
「君と間宮さんだよ。彼女って、君のタイプじゃないと思ったんだけどねぇ。良く付き合う事になったなぁって。」
「ああ・・・。」
浩介はリュックを片掛けにすると、会長の方を向き直った。
「まあ、趣味が合うんです。」
間宮陶子の趣味 キサン @morinohakase
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