4.冬の終わり


  一



 十二月二十六日。クリスマスも終わり、冬休みに入った。結局、愛衣は一度も秋穂と話すことなく冬休みを迎えてしまった。メッセージすら送れていない。自室のテーブルに肘をついた愛衣は、ぼんやりとスマートフォンでSNSを見ていた。不意にスマートフォンが鳴る。急いで手に取って確認をすると、雪からメッセージだった。雪から、今から遊べないかという誘いだった。暇を持て余していた愛衣は二つ返事で返す。急いで着替えて準備をした。

 今日は店ではなく、雪の家で遊ぶことになった。雪の部屋は物が少なくすっきりとしていて、ぬいぐるみで溢れている愛衣の部屋とは正反対だった。部屋の中心に小さなテーブルが置いてあり、そこに飲み物やお菓子を用意してくれていた。

「今日はお招きいただきありがとうございます」

 愛衣はお辞儀をする。雪は「よいよい、楽にせよ〜」と言って愛衣をテーブルの側に座るように手をやる。

「それで、話って?」

 今日は雪から「話したいことがあるから、うちに来てほしい」と言われたのだった。雪の相談事というと、恋人のことが一番に浮かぶが、不仲であるという話は聞いていないし、様子からもそういった感じはしない。なんの話だろうか。

「愛衣さ〜、秋穂とちゃんとお話しした?」

 ぐ、と唸って目を逸らす。

「お話は、してない、です」

 状況を話す罪人の気分で愛衣は話す。もう半月以上話をしていない。目も合わせていない。どう足掻いても逃れられない状況だった。

「別にさ〜、それが悪いとかって話じゃないんだけどね〜」

「……うん」

「私さ〜、ちょっと思うことがあってさ〜」

 暖かいココアを、ずず、と口にしながら雪は続ける。

「愛衣、新しい喫茶店ができたら一番に誰に言いたい〜?」

「え、そりゃ皆でしょ」

「ありがとう〜、でも一番だよ、一番」

 愛衣は顎に手を当てて唸る。一番、一番。そうは言ってもいつもの四人にすぐ言って、皆で行こうって思ってしまう。

「う〜ん、じゃあ方向性を変えるか〜」

 今度は雪も唸り出す。う〜んと難しそうに唸った後、悩みながら言う。

「私と美月に恋人ができた時さ、どう思った〜?」

「そりゃ祝福と応援の気持ちを思ったよ!」

 愛衣は力一杯にぎり拳を作って言った。

「恋人を欲しがってた二人に、二人の良さをわかる人が現れて、二人の努力が実って付き合って、応援以外の何もないよ!」

「うんうん、ありがとう〜。それじゃあさ、秋穂に恋人ができたらどう思う〜?」

「……え」

にぎりしめた拳がゆるむ。秋穂に恋人ができる。そう、それも喜ばしいことのはずだ。だって、あの可愛い秋穂の良さをわかる人が現れて、秋穂を一番に想ってくれて、秋穂が一番に想う人が人になったのだから。なのに、どうして、押し込めている淀みが浮かんでくるのだろうか。

 何も言えなくなってしまった愛衣に、雪が言う。

「愛衣はさ〜、きっと、秋穂のこと、好きなんだと思うの」

「それは好きだよ! 秋穂のことも、雪のことも、美月のことも大好き!」

 身を乗り出して言う愛衣に「そうじゃなくって」と手のひらを向けて落ち着いてと制止する。

「恋をしてるって意味」

 恋。自分が。誰に。

「ち……がう、だって、あたしは秋穂のこと、友だちとして大好きで、だから」

「でも、私と美月に恋人ができた時は応援できたのに、秋穂にはできないんでしょ〜? それってそういうことじゃないかな~って私は思うんだよね」

「それは……」

 その理論で行くのならたしかにそうなる。でも、自分にとって秋穂はとても大切な友人だ。それを恋と混同してはいけない、と愛衣は思った。

「でも、相手は女の子だよ? そんな、恋なんてするはずないじゃん」

 だから友だちだよ、と続けようとした愛衣の言葉を雪が遮る。

「今時そんなの関係ないと思うよ~。それに恋する気持ちはそういうことでどうこうできるものじゃないと思うし~」

「で、でも、友だちを取られた気持ちになって寂しくなってるだけかもしれないじゃん」

 雪は考え込むように「それね~」と唸る。

「そこが難しいところだよね~。友情としてなのか、恋心としてなのか、どっちの嫉妬なのかは区別が難しいよね~」

「友情としてだってば! 絶対そうだよ!」

 愛衣はぐいぐい押していく。自分にとって大切なお友だち。だって、秋穂も自分のことをそうだって言ってたから。そう、自分は秋穂にとって友人でしかない。

「でもそこでそういう顔しちゃうとことがさ~、恋心の方だな~って思うところなんだよね~」

「え」

「無自覚なんだろうけど、すごく寂しそうな顔してるんだよ~。友人っていうポジションがさ、苦しいな~って思ってるんじゃないのかな~って」

「そ、んな、ことは」

 友人であることが苦しい。友人であることが誇らしいはずなのに、それが苦しいなんて、そんなことあるはずがない。

「友人ってさ、仲良しってことでいいけど、でも恋人にはなれないでしょ~。それが無自覚に苦しいんじゃないかな~って」

 友人という誇らしい枷があるせいで、恋人になれないから苦しい。秋穂に、お友だちになってくれてありがとう、と言われたとき、何故だか心がちくりとしたのを思い出した。その時は何故だかわからず奥底に押し込めたが、もしかしたら友人という枷を思い知らされてのことだったのだろうか。それなら、納得がいく。いってしまう。

「これでもさ、まだ自分が恋してないって言える?」

 雪は首をかしげて愛衣に尋ねる。愛衣はもう、絶対にそうではないとは言えなくなってしまった。

「秋穂のこと、大事で、独り占めしたくって、誰にも見せたくなくって、でも拘束なんてしたくなくって、それでも自分だけを見てほしいって、わがままなこと思わない?」

 秋穂がメイクをしてきた時、他の人たちに見せたかったんじゃなく、自分たちに憧れたんだと言われて、とても嬉しかった。そんな可愛い秋穂を、他の人たちも可愛いって言い出して、秋穂がそれに笑顔で返していて、胸が苦しくて。それは、独り占めしたくて、誰にも見せたくなくて、自分だけを見てほしいってことだったのだろうか。ああ、でも。それはとても、腑に落ちるという感覚だった。

「……あたし、秋穂が、好きなんだ」

「うん、きっとね〜」

 雪が先ほどと変わらず、当たり前みたいにココアを飲んでいる。

「相手が女の子だからとか、友だちだからとか、そんなこと思ってたけど、そっか、あたし……秋穂が好きなんだ」

 制御できていなかった淀みがゆるやかに沈む。これは、恋心の嫉妬だったんだ。

「そうと判明したら」

 雪がココアをコン、と音をたててテーブルに置く。キラーンと効果音が付きそうな、とても格好付けた顔をしていた。

「もっと好きだって自覚して、どうするか考えよっか〜」

「えぇ! い、今自覚しただけでもなんか気恥ずかしくなったのに、もっと自覚するの? ほんとに?」

「当たり前でしょ〜、もっともっと自覚して、もっともっと研ぎ澄ませて、それをぐさーって秋穂の心に刺すんだから〜」

「こ、恋って怖いね……」

「そりゃそうだよ」

 雪が頬杖を付いて、当たり前のように言う。

「恋は戦いなんだからさ」

 自分とも他人ともね、と付け加えて雪が言った。


「……でもさ、雪」

 作戦会議を始めようとして、すぐに愛衣は思うことがあった。

「秋穂はさ、周りの人に好かれなくて、その時誰も手を差し伸べてくれなくて、それで苦しんだことがあるって言っててさ。あたしそういう人たちが許せないって思ったんだけど、気が付いてないだけでそういう人たちと変わらないんじゃないかって思って、だから秋穂を好きになっていいのかなって」

 ううん、と雪が考える。少しの沈黙の後、雪が言う。

「でも、それって愛衣が苦しませたわけじゃないでしょ~? 愛衣は、その人たちのことが許せないってことは、秋穂に手を差し伸べたいって思ってるってことだから、それの何がいけないの? って私は思うけどな~」

「そう、なのかな……」

「そうだよ~。だって過去がどうであれ、今その人のことを幸せにしたいって思ってるならそれが全てでしょ~」

「じ、じゃあさ、あたしがクラスの子たちにイメージが変った秋穂に話しかけるのを今更って思って嫉妬しちゃったけど、あたしが初めて秋穂に話しかけたのも好きな曲が一緒だったっていうだけで、その人たちと何が違うのかなって」

 雪はじとーっとした目で愛衣を見る。

「なんかさ、なんとか気持ちを抑え込む理由を探してない~?」

「う、いや、そんなことは……」

「あるでしょ、絶対~」

 愛衣はしょげて小さくなっていく。自分は秋穂に似合わない、自分のような嫉妬深い人間が秋穂に恋をしていいのだろうか、そんな資格はあるのだろうか、と。ふと、秋穂の顔が浮かんだ。いつだったか、秋穂が自分は人とかかわる資格などないと言っていて、それに対してそんなことない、と返したことがあった。秋穂はずっとこんな気持ちだったのだろうか。だとしたら、それはとても悲しいことのように感じて、今の自分も秋穂から見たら悲しく見えるのだろうか。

 考え事をして黙ってしまった愛衣に、雪が頬に指を当てて言う。

「それってさ、普通のことじゃないの? 何かきっかけがあって仲良くしたいなって思って、声を掛けて、仲良くなって。そういうものじゃない? 友情も恋愛も」

「そう……かな」

「そうだと思うよ、私は~」

 雪はこういう時、肝が据わっていてすごいなと愛衣は思う。自分は言い訳を探したり、弱気になったりしてしまっていた。でも、自分が秋穂の幸せを願って手を取りたいと思っていることも、きっかけが他の人と変わらないのだとしても、きっとそれでいいんだ。

「自分の気持ちを、抑える方が悲しいよね」

「そうそう~。そう思うよ~」

 だからガツンといっちゃえ、と雪が握りこぶしを高く掲げて言う。普段も頼もしい友人だが、今はもっともっと頼もしく見える。

「雪先生、すごい。頼もしすぎる」

「でしょ~。任されよ~」

 ドン、と雪は胸を叩く。本当に、頼もしい友人がいてくれてよかったと愛衣は思った。


 それから雪の部屋で自分の気持ちと向き合ったり、作戦会議をしたりしていた。家に帰って夕飯を食べ、お風呂に入る。温かい湯船に浸かりながら、愛衣は考える。

 自分が恋をする日がくるなんて思わなかった。だって、そういうのって目があった瞬間に運命ってわかるものなのではないのか。いや、そんなことないって雪には否定されたけど。でもいちごソーダでだって貴方と出会って世界が変わったって。

 あれ、でも、それなら。秋穂という色が混ざって、あたしの楽しい世界がもっと楽しくなった。それってもしかして、その瞬間から始まっていたのだろうか。

 雪の家でも色々自覚をして恥ずかしくなったが、出会った瞬間から自分は恋をしていたのかもしれない、と気付いてもっと恥ずかしくなる。誰も見ていないのに両手で顔を隠した。

 ――ああ、秋穂に会いたい。ずっと会いたかった、ずっと話したかった。ずっと、あの笑顔がまたあたしに向いて欲しかった。他の人じゃなくて、あたしに。

 でもなんて言って会えばいい。なんて連絡すればいい。わからない。愛衣は湯船でずっと悩んで、それから一つ答えを出した。

 そうだ、初詣。本当は一緒に行く約束をしていたけど、年が明けてすぐ一人で行って、神様に勇気をもらって、それから秋穂を誘って二人で行こう。作法としては間違ってるのかもしれないけど、神様は心が広いからきっと許してくれる。

 そうと決まれば、と残りの五日間で秋穂と会ったらなんて言おうか考えよう。愛衣は勢いよく湯船から出て、一人会議を始めた。



  二



 年が明けて一月一日。結論から言うと、すぐに初詣にいくことはできなかった。

 家族とカウントダウン番組を見てひとしきり笑って年が明けた。すぐにでも行こうと思っていたのに、その思いとは逆に体が動かない。自室に向かうことも出来ない。秋穂と約束をしていたのに、一緒に行くのが楽しみだったのに、と一人で行くのがとても苦しかった。その理由が一緒に行く勇気をもらうためだったとしても、足も気も向かなかった。

「それじゃあ、私は行ってくるね」

「いってらっしゃ〜い」

 時刻は三時頃、愛衣がずっとためらって動けずにいる間に、姉が友人と初詣に行ってくると出かけた。姉を見送るのに立ち上がった愛衣は、自分もと自身を奮い立たせて自室へと向かう。着ていく服は決めたし、神様にお願いすることも、秋穂を誘う文言ももう決まっている。大丈夫、と軽く右手を握る。支度をして初詣へと出かけた。


 夜中だというのに人がごった返している。この神社は特別人気な神社というわけではなかったが、この辺りにはここしかないため人がよく集まる。人ごみをかき分けて、列を見つけて並んだ。白い息を吐きながら、少しずつ列が進むのを待つ。暗いはずの視界の端に、黒猫のぬいぐるみが映った気がした。

 途端に愛衣の体は駆け出した。黒猫のぬいぐるみがいた方角へと走る。人がごった返しててよくわからない。それでも、黒猫のぬいぐるみを、それを持っているであろう人を探す。人をかき分けながら進んだ先、柵がある坂道の上部へ出る。柵の向こう、坂の下に、ストレートの黒髪を揺らす彼女を見つけた。柵に手をかけ、その反動でカバンにつけたピンクのうさぎのぬいぐるみがゆらゆらと揺れる。

「秋穂!」

 がやがやとしたこの場所で、彼女に声が届くかはわからない。そう思いながらも発した言葉は、彼女の耳に届いたらしい。黒猫のぬいぐるみが揺れる。秋穂が振り返って愛衣と目が合った。星が瞬いたような気がした。

「待って、今そっちに行くから!」

 愛衣は秋穂から視線は外さずに坂を降りて行こうとする。待ってといったはずなのに、秋穂は愛衣がいる方向とは逆方向へと歩き出した。

「えっ、ちょっと、待ってってば! 秋穂!」

 愛衣は急いで坂を降りようとするが、この人混みではうまく進んでいけない。秋穂も人混みをかき分けて進んでいるため歩みは早くはないが、それでも離れていっているような気がした。人混みに足を止められている間、一瞬だけ秋穂は自分に会いたくないんじゃないか、という考えがよぎったがそれよりも秋穂が離れていってしまうことが寂しくて、会いたくて話したくて、歩みを止めることはなかった。

 人混みをかき分けて進み、少しずつ人が少なくなる。神社のすぐ隣には公園があり、秋穂はそこにいた。他には人が一人もいなくて、普段ならその様子を恐ろしいと感じるのだろうけど、愛衣は秋穂がいるということ以外は頭になかった。

「秋穂!」

 声をかけると、ここまで追いかけてくるとは思っていたなかったのか、びくっと肩を震わせて振り返る。そしてまた逆方向へと歩こうとする。愛衣は右手を伸ばして秋穂の右手首を軽く掴む。秋穂は振り返らない。愛衣はそのまま言葉を紡ごうとする。

「……ええと」

 いざ話そうと思うと頭が真っ白になってしまって、言葉が一つも出てこなかった。どうしよう、雪とたくさん話して準備したのに、五日間考え続けたしシミュレーションもしたのに、言葉が出てこない。言いたいことが、伝えたいことが、たくさんあるはずなのに。言葉が荒れた川の流れみたいに押し寄せて、ダムの小さな出口に詰まっているような感覚。水が暴れていて、小さな出口には水がほとんど流れてこない。何を言うべきか瞳を泳がせて考えていた愛衣に、振り返らずに秋穂が言う。

「私、愛衣と顔を合わせる資格ないよ」

 悲しそうな、しぼり出すような声だった。その言葉と声に愛衣のダムは決壊して、制御のできない言葉が流れ出す。

「あたしと顔を合わせるのに、資格なんて必要ないよ」

「あるよ、私、ずっと愛衣を避けてたもの」

「避けられてるなっていうのは感じてたけどさ、あたしも秋穂から逃げてたから、おあいこでしょ」

 秋穂の背中に声をかける。秋穂は俯いて、手が少し震えていた。

「あたしさ、秋穂がいない間、ずっと考えてた。なんでこんなにイヤな気持ちがするんだろうって」

 秋穂は俯いたまま、振り返らずに愛衣の言葉を待つ。

「秋穂がかわいくなって、色んな人と話すようになって、色んな人に笑いかけるようになって、それは今まであたしに向けられてたのにって、すごくイヤな気持ちがドロドロしてた」

 醜い嫉妬心が湧き上がって、秋穂をちゃんと見れてなかった。

「あたしが秋穂に、友だちはあたしたちだけじゃないって言ったのに、矛盾しててほんとにダメなやつだなって思う。でも、あたし以外の人が秋穂に笑いかけられてるのがなんだかずるいと思っちゃって、ちゃんと見れなくなってったの」

 自分勝手な思いで、制御できない自分の心で、秋穂を傷付けてしまった。

「ごめんね、秋穂。あたし、秋穂を傷付けたよね、ほんとにごめん」

 段々と、秋穂の手首を掴んだ手の力が抜けていく。申し訳なくて、今こうやって言ってるのだって結局は秋穂を傷付けて追い込んでいるだけなんじゃないのか。

「あたし、気付いたの。あたしさ、秋穂が大事。一番大事。他に何にもいらないから、秋穂に隣にいてほしい」

 今まであんな態度をとっていたのだから、今更と嫌がられるかもしれない。自信がなくなって、秋穂の手首を掴んでいた手がするりと落ちる。

「……ほんとに?」

 夜空とは違う色の、綺麗な黒髪をなびかせて秋穂が振り返った。その瞳は、涙を溜めているのかとてもきらきらとしていて、泣かせてしまったのはきっと自分なのに宝石みたいで綺麗だなと思ってしまった。

「ほんとに」

 愛衣が答えると、秋穂は控えめにそっと愛衣の左の袖口をきゅっと掴む。こういう控えめで可愛いところが自分は好きなのだ、と愛衣は思った。

「あのね、秋穂。聞いてほしいことがあるんだ」

 秋穂は袖口を掴んだまま、首をかしげてこちらを見る。うるんだ瞳がきらきらとして、心の中の万華鏡が現実にあるような気がした。

「イヤだったらちゃんとイヤだって言ってね、言われることも覚悟してきてるからさ」

 にひひ、といらずらっぽく愛衣は笑う。本当は真剣な顔をしたかったのだけど、秋穂がこっちを見てくれたのが嬉しくて、そして自分のこれからする行為にむず痒いような気持ちになって、つい笑ってしまった。

「あたしさ、秋穂のことが好き。たぶん、恋愛的な意味で。すごく好き。大好き。世界で一番愛してる」

 人生で初めての告白をする。告白するってこんなに勇気のいる行動なのだと、初めて知った。

 秋穂はその言葉を聞いて、目をまん丸くして驚いて、それからその目からぽろぽろと涙を流した。愛衣は嫌だと言われることは覚悟していたが泣いてしまうとは考えておらず、動揺してしまう。

「ご、ごめん、やっぱりイヤな気持ちにさせちゃったよね、ごめん」

 愛衣はハンカチかティッシュをとカバンの中を探そうとする。秋穂は泣きながら首を横にぶんぶん振った。

「ちがう、私、私がそんな風に愛衣に思ってもらえてるなんて思わなかったから」

 涙は止まらずにぽろぽろと流れて地面に染みを作っていく。

「私、美月と雪と仲良くなれてうれしかったのに、二人が愛衣と笑ってるのを見て、すごく苦しくなる時があって、お友だちなのにそんなこと思っちゃいけないって思って、ずっと言えなかったの」

 拭われない涙が地面の染みを増やしていく。

「愛衣のこと、独り占めしたいなって、愛衣にもっと私に笑ってほしいなってわがままなこと思ってた。でも、愛衣も同じようなことを私に思ってたって思わなくって、それで」

 地面に涙の染みが広がるのと同じように、愛衣の心にじんわりと温かい気持ちが広がっていく。だって、それって。

「私、この気持ちがずっとわからなかったの。でも今わかった。きっと私も、愛衣に恋をしているんだと思う」

 じわりと広がる温かさが、顔と耳にも伝わっていく。暗くて秋穂には伝わらないだろうけど、愛衣の顔は真っ赤になっている。

「私もきっと愛衣が好き。世界で一番大事だよ」

 涙を流しながら、愛衣の万華鏡が、一番嬉しい言葉を言う。万華鏡の中にきらきらの宝石がまた詰まった。

「秋穂、ほんとにあたしでいいの? イヤな気持ち抱えてさ、秋穂にイヤな思いもさせてさ、そんなやつだよ?」

「ふふ、愛衣がいいんだよ。それに、ほら、私も同じ思いで同じことしたから、おあいこなんでしょ?」

 泣きながらも、してやったりという顔で秋穂が笑う。少し悔しいけど、でも嫌な気持ちはしない。

 愛衣は手を伸ばしてそっと秋穂の手に触れる。秋穂は戸惑いつつも、愛衣の手を握る。温かい。拒絶されるかもしれないと思ってたのに、また繋がりができたことが何よりも嬉しかった。目が合って、二人で笑い合う。

 人生にこんなに幸せな時があるのかと、愛衣も秋穂も思った。

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