2025年7の月
秋乃光
(*°▽°)続行!
2025年7月5日。どこかの誰かの本に書かれた内容を、誇張を交えながらテレビが拡散したおかげで、モアがすっかり信じ込んでしまった。
「これは我々に対する宣戦布告だぞ!」
しかも異変が起きるとされる時間は午前四時だ。
午前四時は、実質、前日の深夜だろ?
できることなら、真っ昼間にしてもらいたかった。そうすれば、……まあ、土曜の昼間だから仕事ってことにはできないか。
「どうせ何も起こらないだろ」
せっかくの土曜日なのに、俺はモアに起こされ続けている。午前四時が過ぎて、何も起こらないことを確認してからでないと寝かせてもらえない。そのわりに、モアのほうが時折うとうとしているのがなんだかな。寝てると言えば「寝てないぞ!」って怒る。
「我々より先に人類を滅ぼそうとする相手を、許してはいけないぞ!」
紹介しよう。こちらはアンゴルモア。かの有名な『ノストラダムスの大予言』にてその名前が確認できる。蘇って、マルスの前後に支配するとかいうアレ。今はアンゴルモアではなく“安藤モア”という名前を名乗り、モデルとして活動している“
予言の通り、99年7の月に“ものすごく遠い星”から地球を侵略しに来た侵略者のモアだけど、そこで生まれたての俺(1999年7月20日生まれ)に一目惚れしたらしく、侵略はやめて、俺が大学院生になってから再度地球にやってきた。直接の上司である恐怖の大王には、侵略活動をしていると報告している。虚偽の報告じゃん。ダメだろ。そんなことをしていたから、2025年になって本気を出して侵略しに来たのか?
「はいはい」
「我が相手になる。どこからでもかかってくるがいい!」
モアは何もない空間に向かって叫んだ。返事はない。家の中に現れたら最悪だから、ここでは現れないでほしい。
「こちらから探しに行くか?」
俺はソファーから立ち上がった。座っていたら眠くなるから、立ったほうがいい。
「おお! 真夜中デート!」
「デートではないだろ。敵を探しに行くんだからさ」
「う、うむ! そうだぞ!」
モアが勘違いしている。デートではない。このまま座って時が過ぎるのを待っているだけよりは、外を歩き回ったほうが気も紛れる。俺の眠気はピークを過ぎて、むしろ日中より元気なぐらいだ。
「モアの勘でいいんだけどさ。どの辺が怪しいと思う?」
俺はモア以外に宇宙人がいるとは思っていない。滅亡の原因が侵略者による侵略行為だけとも限らない。いまだって国と国とが戦争しているし、やばい病気が流行って全滅するかもしれないじゃん。たまたま、この国に何も起きていないだけ。
モアがここまで警戒するのであれば、いてもおかしくはない、と思う。知らず知らずのうちに、人類は滅亡をすんでのところで回避し続けているのかもしれないしさ。
「我はコンビニに行きたいぞ!」
「……あのさ、モア」
「侵略の足がかりとして、まずは国の中枢部を押さえるべきだぞ。すなわち、永田町霞ヶ関!」
さっきから浮かれてるんだよな。モアは俺のスマホのマップアプリを開いて、国会議事堂にピンを立てた。
「ここで何をしてるか知ってる?」
「この国の行く末を決める重要な会議、ではないのか?」
「そうか。そうだろうな」
「ここを拠点として、この国を制圧するぞ。その前に『腹が減っては戦はできない』という古い言葉がある! 腹ごしらえをするぞ!」
この家からもっとも近いコンビニにピンをずらす。俺の腹は減っていない。
「モア」
「うむ?」
「おなかが空いているなら、食べてから出かければいいだろ」
「ここで何か食べていたら、予言の時間を過ぎてしまうぞ! おなかいっぱいになって、敵も探せる、一石二鳥ではないか!」
ふんふん! とモアは得意げに鼻を鳴らす。とにかく外に出て何か食べたいということらしい。
「まあ、いいか」
大地震も、大津波もない。
天変地異は、たぶん、起きない。
そして、今年の誕生日を、何事もなく迎えるのだろう。
2025年7の月 秋乃光 @EM_Akino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます