祝福と讃眤

空が紅く染まるのは、希望の色だと彼女は思っていた。


 けれど、実際には違った。

 今日も、焼け落ちた砦の残骸から、黒煙が赤空に伸びている。風がそれを引き裂いて、灰が雪のように舞った。積もっていく。血溜まりにだけ。


 「カル、指先、燃えてるぞ」


 振り返れば、カリレントがいた。左目の瘴痕が、炎の光に照らされて妖しく歪んでいる。彼はどこか楽しそうに笑って、肩越しに銃を背負った。


 「魔力の制御が雑だ。休め」


 「……こんなときに?」


 カルリシュは笑えなかった。地面に崩れた鉄仮面の兵士。その胸に刺さったままの魔具槍。自分が放ったものだった。


 「空の果てを見たいんじゃなかったのか?」


 彼の言葉が、鋭く、優しかった。


 「戦いが終わらなきゃ、見れないんだよ」


 「でも、心まで焦がしたら、見たときに何も感じられなくなるぜ」


 カルリシュは、視線を落とした。かつてはその言葉にすがれた。でも今は、指先に残った焼け跡が、まるで答えのようだった。


 「カリレントは? まだ、木を育てたい?」


 彼は黙って、ベルトに結んだポーチを取り出した。中から、小さな小瓶。水。種子。


 「――この土地じゃ、もう育たない」


 それが答えだった。


 「でも、まだ“見つけてはいる”んだ」


 沈黙。


 戦場の向こうでは、味方の拠点が陥落していた。祝福の神旗が倒れ、雑草のように踏み荒らされていく。


 「私たち、いつまでこんなことしてればいいのかな」


 「知らねえよ、そんなの。けど」


 カリレントは、右手を空に向けてかざす。そこには、ただの紅。焼ける空。夢の形を失った空。


 「いつか、“こんな空にも祝福があった”って言える日が来る。俺はそう思う。……まだ信じてる」


 カルリシュは目を閉じた。


 祝福と讃眤。

 祈りと罵倒。

 その狭間に生きる二人は、今日もまた、燃える戦場の中を…

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