マイルデータートの海
風が吹けば、プラスチックの欠片が風鈴みたいに鳴る。積まれた瓦礫の隙間から、空の一部がひょっこり顔を出して、またすぐ雲に隠れる。
ここは
「おじさーん! カップの底、きれいなの見つけたー!」
少女は声を上げて瓦礫を飛び越えた。肩にはシートで作ったカバン、手には錆びたスコップ。ぼさぼさの髪から何本か針金が飛び出してるのはご愛嬌。
おじさんは古い送風機の上に腰かけて、今日の収穫を広げていた。
「おお、ほんとだ。これ、研いだら使えるな」
「海に使えるかな?」
「お。今日は“海”か」
少女の夢は、自分で海を作ること。昔、壊れたプロジェクターで見た“青い水の揺れるやつ”に、心を持っていかれてからずっと。
「波は……どうやって作るんだっけ?」
「えーとね、風で、びゅってして、下が深くて、太陽が照らして……それっぽくなる!」
おじさんは吹き出した。手元の缶をトントンと叩いて、ニコニコしながら立ち上がる。
「それっぽく、ってのがいいんだ。マイルデータートじゃ、本物より“それっぽさ”のほうがずっと効く」
そう言って、おじさんは少女の手を引いた。崩れかけの鉄板をよじ登ると、見晴らしのいい場所に出た。ゴミ山のてっぺん。
「見ろ、今日の空はちょっとだけ、水色だ」
遠くで、煙を吐く焼却炉がうなっている。けれど、この角度からだと、ほんの少し空が広く見える。
「なあ、海ってのは、何が一番大事なんだろうな?」
「うーん……波? 魚? 深さ?」
「なるほどな。でも、おじさんは“見る人”がいることだと思うな」
「……?」
「海を見て、いいなって言う誰かがいないと、きっとそれは海にならんよ」
少女は黙って頷いた。海のことはよく分からないけれど、今の言葉はなんだかぽかぽかした。
「じゃあ、見てくれる人がいる海、つくる!」
「よっしゃ、まずはこのカップを水入れに改造しようか」
「わーい、カップの海!」
おじさんが笑う。少女も笑う。ゴミ山の上で、二人だけのそれっぽい未来が、また一歩進んだ気がした。
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