みじけぇ天遍

メタルツリー・J・ジュンキング

ボーロ美味ッター

 空が桃色にひび割れて、ウグイスみたいな顔をしたタクシーが空中を走っていった。

 少年はその光景を見ながら、肩から生えたナス鉢をぐいと抱え直した。葉っぱが元気にパチパチ跳ねている。今日も変わらず、トウモロコシみたいな見た目だ。ナスなのに、トウモロコシ。


 「よし! 今日は慎重に行こう、猪突猛進でな!」


 頭が悪いのか悪くないのかよく分からない気合を入れる少年。その足元で、白いシリコンキューブがぶるぶる震えている。


 「うるせぇ、分かってらぁ! 今度はちゃんと店の名前、覚えてる!」

 《ブウッ(振動)》

 「いやホントだって! “ペロリ薬局”だろ? あの……風邪薬がだいたい食べられるって評判の!」


 そう、今日はお使いの日だ。ナスに適した喋る肥料を買いに行くというだけの、単純な任務のはずだった。

 問題は、この世界の「単純」という言葉が、大体ドラゴンを引き連れてくるということだ。


 *


 道中、目が7つあるクジラ型アイス屋に勧誘されたり、背中が書斎になってる猫に読書を強いられたりしつつ、少年とキューブはなんとか目的地っぽい建物の前までたどり着いた。


 「ここが“ペロリ薬局”だな?」

 《プルルル(不穏な震え)》

 「ん? 文字が違う? “ベロリ餃子店”?」


 少年はしばし考えた。慎重さが試される時間だ。


 「でもまあ、餃子も薬みたいなもんだろ!!」


 慎重さが迷子になった瞬間だった。


 *


 餃子店の中には、目の下にナルト模様のある老人がいて、こちらを見て笑っていた。

 

 「おぬし、肥料を求めておるな?」


 少年は戸惑った。「え? 分かるんすか?」


 「ふむ、そのナス、ただのナスではあるまい。“トコナス”じゃな?」


 「名前あったの!?」


 老人は静かに餃子を一つ、少年の掌にのせた。

 中から光が漏れている。


 『オハヨウゴザイマス! コチラ肥料デス! 召し上がらず、土に混ぜテネ!』


 餃子が喋った。そうだ、これがこの世界の標準なのだ。


 「ありがてぇ……!」


 少年は涙ぐんだ。キューブはその横で震えていた。《ブッブブ(泣いてる)》


 *


 帰り道。


 少年は張り切って餃子肥料をナス鉢に植え、見事にナスが咆哮した。


 「グワッシェアアァアアアア!!!」


 隣のキューブが大きく震えた。というか直立した。


 《ピィィィィ……任務完了……自己進化ヲ開始……》


 少年は叫んだ。


 「ちょっと待て!? なんで肥料でキューブが覚醒すんの!? ナスの成長ちゃうんかい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る