第7話 覆らない現実
やっと掴んだ、人生の“はじまり”。
でも、その足元に待っていたのは──崩れ落ちる現実でした。
ユウシが踏み出した「夢の第一歩」。
その直後に告げられた、“知ってはいけない真実”とは。
*
「──それで、話って……何でしょうか?」
俺が問いかけると、ふろうどは指を組み、穏やかに微笑んだ。
まるで、古くからの知人に語りかけるような、優しい顔で。
「……ご両親は、君に何も話してないみたいだね」
その瞬間、何かが心の奥でざわついた。
直感が告げていた。この話は、“知ってはいけない”。
⸻
「実はね、君のご両親。私からお金を借りていたんだよ」
「……借りていた? 会社を立ち上げたときの?」
「そうそう。でもね、残念なことに“返せない”って言われてしまって。
私としても不本意だったけど──強行手段に出るしかなかったんだ」
ふろうどは、申し訳なさそうに肩をすくめ、笑った。
「いま、借金取りに追いかけさせてるところさ。
怖〜いお兄さんたちにね」
「……っ!?」
思考が止まった。
両親は、“諦めないで”と書いてくれたはずだ。
信じてた。希望を託してくれたはずだ。
それなのに、こんな形で終わるなんて──そんなの、嘘だろ。
現実だけが、無遠慮に脳に突き刺さる。
⸻
「……さっきの電話、そういうことだったんですね。
……見つかったんですね。おめでとうございます」
口角だけ、無理やり吊り上げた。
でも、手は震えていた。
「──その借金、僕が請け負います。
絶対、成功させて返します。だから……両親は無事でいてください」
ふろうどは、満足げに目を細めた。
「言ってくれると思ったよ。
じゃあ今のうちにサインを。私は電話で止めさせておくからね」
⸻
でも、どこかおかしかった。
こんなにも“用意が良すぎる”。
違和感があった。
でも──考えてる暇はなかった。
両親が、危ない。
「……これで、両親は助かるんですね?」
「──ああ、電話しようと思ったんだけど……出ないんだよねぇ」
「……?」
「実家にいるらしいんだけどさ。
中、結構荒れてたなぁ……」
……終わった。
罠だった。
立ち上がった俺は、急いでビルを飛び出した。
実家の住所は、退院のとき看護師さんが特別に教えてくれた。
──“どうしても”というと、涙目の俺に根負けして。
俺の名前は──藤本ユウシ。
⸻
「……融資、ありがとうございます。
急ぎますので、これにて失礼します」
ふろうどの顔には、薄く笑みが貼り付いていた。
俺はアスファルトを叩くように走った。
反発する地面が、走るたびに痛みに変わっていく。
⸻
そして──家に、たどり着いた。
玄関を開けた瞬間、異常な空気が鼻を刺した。
家具は倒れ、ガラスは割れ、花瓶が砕けている。
靴を脱ぐ間も惜しんで、破片を踏み越え、奥の部屋へ。
そして──
そこで、二人を見つけた。
吊られた縄。
動かない身体。
……もう、息はなかった。
──願いも、声も、すべてが遅かった。
⸻
次回予告
第8話『4ページ目』
「なんでだよ……!」
──夢を掴んだ、その日に。
突きつけられた現実は、あまりにも残酷だった。
それは、ノートの“4ページ目”に書く出来事。
ユウシはこの瞬間、“もう戻れない場所”に足を踏み入れた。
*
最後まで読んでくださってありがとうございます。
ユウシにとって、初めての“選択”。
そしてそれは、「もう戻れない場所」への入口でもありました。
「信じていた人が、信じていた人を裏切る」
希望は時に、地獄への片道切符になるのかもしれません。
次回は、心が壊れていく中で見つける“5ページ目”。
彼の旅はまだ続きます。
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