第7話 覆らない現実

やっと掴んだ、人生の“はじまり”。

でも、その足元に待っていたのは──崩れ落ちる現実でした。


ユウシが踏み出した「夢の第一歩」。

その直後に告げられた、“知ってはいけない真実”とは。




「──それで、話って……何でしょうか?」


俺が問いかけると、ふろうどは指を組み、穏やかに微笑んだ。

まるで、古くからの知人に語りかけるような、優しい顔で。


「……ご両親は、君に何も話してないみたいだね」


その瞬間、何かが心の奥でざわついた。

直感が告げていた。この話は、“知ってはいけない”。



「実はね、君のご両親。私からお金を借りていたんだよ」


「……借りていた? 会社を立ち上げたときの?」


「そうそう。でもね、残念なことに“返せない”って言われてしまって。

私としても不本意だったけど──強行手段に出るしかなかったんだ」


ふろうどは、申し訳なさそうに肩をすくめ、笑った。


「いま、借金取りに追いかけさせてるところさ。

怖〜いお兄さんたちにね」


「……っ!?」


思考が止まった。


両親は、“諦めないで”と書いてくれたはずだ。

信じてた。希望を託してくれたはずだ。

それなのに、こんな形で終わるなんて──そんなの、嘘だろ。


現実だけが、無遠慮に脳に突き刺さる。



「……さっきの電話、そういうことだったんですね。

……見つかったんですね。おめでとうございます」


口角だけ、無理やり吊り上げた。

でも、手は震えていた。


「──その借金、僕が請け負います。

絶対、成功させて返します。だから……両親は無事でいてください」


ふろうどは、満足げに目を細めた。


「言ってくれると思ったよ。

じゃあ今のうちにサインを。私は電話で止めさせておくからね」



でも、どこかおかしかった。

こんなにも“用意が良すぎる”。


違和感があった。

でも──考えてる暇はなかった。


両親が、危ない。


「……これで、両親は助かるんですね?」


「──ああ、電話しようと思ったんだけど……出ないんだよねぇ」


「……?」


「実家にいるらしいんだけどさ。

中、結構荒れてたなぁ……」


……終わった。

罠だった。


立ち上がった俺は、急いでビルを飛び出した。


実家の住所は、退院のとき看護師さんが特別に教えてくれた。

──“どうしても”というと、涙目の俺に根負けして。


俺の名前は──藤本ユウシ。



「……融資、ありがとうございます。

急ぎますので、これにて失礼します」


ふろうどの顔には、薄く笑みが貼り付いていた。


俺はアスファルトを叩くように走った。

反発する地面が、走るたびに痛みに変わっていく。



そして──家に、たどり着いた。


玄関を開けた瞬間、異常な空気が鼻を刺した。

家具は倒れ、ガラスは割れ、花瓶が砕けている。


靴を脱ぐ間も惜しんで、破片を踏み越え、奥の部屋へ。


そして──


そこで、二人を見つけた。


吊られた縄。

動かない身体。

……もう、息はなかった。


──願いも、声も、すべてが遅かった。



次回予告


第8話『4ページ目』


「なんでだよ……!」


──夢を掴んだ、その日に。

突きつけられた現実は、あまりにも残酷だった。


それは、ノートの“4ページ目”に書く出来事。

ユウシはこの瞬間、“もう戻れない場所”に足を踏み入れた。




最後まで読んでくださってありがとうございます。


ユウシにとって、初めての“選択”。

そしてそれは、「もう戻れない場所」への入口でもありました。


「信じていた人が、信じていた人を裏切る」


希望は時に、地獄への片道切符になるのかもしれません。

次回は、心が壊れていく中で見つける“5ページ目”。

彼の旅はまだ続きます。

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