第5話 リスタート

病院を退院した俺は、記録に残っていた“自宅”の住所を頼りに歩いた。

着いたのは、1Kの古びたアパート。

鍵がすんなり開いたときだけ、過去の自分がそこにいた気がした。


部屋に入ると、しばらく動けなかった。


──これが、俺の生活か。


一人暮らしってことは……彼女いたのかな?

それとも、ずっと独りだったのか。

鏡に映った平凡な顔を見て、思わず苦笑する。


でも、そう思えること自体が──なんだか、幸せだった。


小さくても、確かに“生きてる”って思えた。



だが現実は、甘くない。


「……会社経営って、どうすればいいんだよ」


両親の夢を継ぐと決めた俺にとって、これはもう他人事じゃない。

ノートを開き、過去の“俺”に問いかける。


──大丈夫。きっと、やれる。

だって地頭は良い……はずだし。


なぜかそんな自信だけは湧いてくる。

俺は、経営に必要な知識、人脈、そして金を集めるところから始めた。



「何歳からでもやり直せる。

やり直せないのは、“過去”だけだ」


その言葉を胸に刻みながら、ノートを抱きしめる。

ここからが、本当のスタートだ。



ある程度の準備が整ったころ、気づいた。

──金が、足りない。


資本金には到底届かない口座残高。


「……もっと貯金しとけよ、昔の俺……」


思わず天井に向かって突っ込む。


決めた。

まずは正社員になって資金をためて、不動産会社を立ち上げる。

誰かの記憶に残るような──そんな会社を、俺はつくる。



次回予告


第6話 ユウシと融資


不動産の夢に向けて動き出した俺。

資金不足を補うため、融資を受けることにした。


だが、現れた担当者は──

なぜか、俺の“過去”を知っていた。


両親のこと。俺が忘れてしまった、もうひとつの真実。


不敵な笑み。謎の言葉。


物語はここから、

希望から絶望へと転がりはじめる──。

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