第4話 親友からのメッセージ
記憶を失った俺に、親友が言った。
「初めましてって、何度でも言ってやるよ」
名前も、過去も、全部忘れてしまった俺。
でも、“あいつ”だけは…忘れちゃいけない気がした。
涙でページが歪む4話、読んでください。
*
涙を流す俺の前に、ひとりの男が現れた。
サイ──俺の、親友だという。
「……俺のこと、忘れてんだろ?」
少しだけ笑って、サイは俺の枕元に腰を下ろした。
俺は、震える手でノートを差し出す。
「……これに、書いてくれないか。
お前が──俺に、忘れてほしくないこと」
サイは目を伏せ、ほんの少し眉をひそめた。
「……そっか。
自分の名前すら、覚えてないって……看護師さんから聞いたよ」
そして、ペンを握ったその手に、一切の迷いはなかった。
⸻
ユウシへ。
看護師さんから聞いたよ。
お前、自分の名前も忘れたらしいな。
でも──それでも構わない。
俺は、お前の親友だ。
それだけは、記憶がなくても関係ない。
もしまた会えたら、
“初めまして”って、挨拶させてくれよな?
⸻
書き終えたサイは、俺の目をまっすぐ見つめて言った。
「ユウシ。
お前が何回、記憶をなくしても──
そのたびに俺は、何度でもお前と仲良くなりたい」
「だって親友だしな。
記憶が戻ったら……また、“初めまして”だ。楽しみにしてる」
そう言って、サイは立ち上がった。
病室のドアを開ける。
でも──一度も振り返らなかった。
きっと、泣いている俺を見せないように。
俺の涙を、守るように。
⸻
サイは病院の駐輪場へ向かい、
自転車にまたがると、風みたいに走り去っていった。
「最後の記憶が俺で、嬉しい」
──でも、その記憶が“別れ”だったのは、やっぱり、悲しい。
それでもサイは願っていた。
俺の中に残る“最後の景色”が、
前を向く親友でありますように、と。
「また会おうな、ユウシ」
我慢しきれなかった涙が、サイの頬をすっと流れた。
それでも彼は、自転車を漕ぎ続けた。
⸻
両親。看護師さん。そして──サイ。
この3人だけが、俺の名前を覚えていた。
俺は、ノートの3ページ目を見つめ、嗚咽を漏らす。
「なんで……なんで名前を書いてくれてねぇんだよ……!」
⸻
でも夜は、悲しみに浸る時間をくれなかった。
朝は、ちゃんとやってきた。
そして──
俺は、すべてを忘れた。
⸻
次回予告
第5話 リスタート
記憶はもう、何も残っていない。
でも、俺にはノートがある。
両親が残した“想い”。
名前も書かずに託された、親友の“メッセージ”。
それだけが、今の俺をつなぎとめている。
夢はもう、決まってる。
──両親が果たせなかった会社経営を、俺が継ぐこと。
ノートを抱きしめ、俺は小さく息を吸い込んだ。
「これが……俺の、夢なんだ」
*
最後の記憶が、自分のことだったら。
嬉しいはずなのに、それが「別れ」だったら──
親友の言葉が、心に残って離れません。
「初めましてって、何度でも言ってやる」
忘れられても、失っても。
それでも“もう一度”を信じて、想いを託す人がいる。
涙が止まらなかった、そんなあなたの感想を聞かせてくれると嬉しいです。
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