第4話 親友からのメッセージ

記憶を失った俺に、親友が言った。


「初めましてって、何度でも言ってやるよ」


名前も、過去も、全部忘れてしまった俺。

でも、“あいつ”だけは…忘れちゃいけない気がした。

涙でページが歪む4話、読んでください。



涙を流す俺の前に、ひとりの男が現れた。

サイ──俺の、親友だという。


「……俺のこと、忘れてんだろ?」


少しだけ笑って、サイは俺の枕元に腰を下ろした。

俺は、震える手でノートを差し出す。


「……これに、書いてくれないか。

お前が──俺に、忘れてほしくないこと」


サイは目を伏せ、ほんの少し眉をひそめた。


「……そっか。

自分の名前すら、覚えてないって……看護師さんから聞いたよ」


そして、ペンを握ったその手に、一切の迷いはなかった。



ユウシへ。


看護師さんから聞いたよ。

お前、自分の名前も忘れたらしいな。


でも──それでも構わない。

俺は、お前の親友だ。


それだけは、記憶がなくても関係ない。


もしまた会えたら、

“初めまして”って、挨拶させてくれよな?



書き終えたサイは、俺の目をまっすぐ見つめて言った。


「ユウシ。

お前が何回、記憶をなくしても──

そのたびに俺は、何度でもお前と仲良くなりたい」


「だって親友だしな。

記憶が戻ったら……また、“初めまして”だ。楽しみにしてる」


そう言って、サイは立ち上がった。


病室のドアを開ける。

でも──一度も振り返らなかった。


きっと、泣いている俺を見せないように。

俺の涙を、守るように。



サイは病院の駐輪場へ向かい、

自転車にまたがると、風みたいに走り去っていった。


「最後の記憶が俺で、嬉しい」

──でも、その記憶が“別れ”だったのは、やっぱり、悲しい。


それでもサイは願っていた。

俺の中に残る“最後の景色”が、

前を向く親友でありますように、と。


「また会おうな、ユウシ」


我慢しきれなかった涙が、サイの頬をすっと流れた。

それでも彼は、自転車を漕ぎ続けた。



両親。看護師さん。そして──サイ。

この3人だけが、俺の名前を覚えていた。


俺は、ノートの3ページ目を見つめ、嗚咽を漏らす。


「なんで……なんで名前を書いてくれてねぇんだよ……!」



でも夜は、悲しみに浸る時間をくれなかった。

朝は、ちゃんとやってきた。


そして──


俺は、すべてを忘れた。



次回予告


第5話 リスタート


記憶はもう、何も残っていない。

でも、俺にはノートがある。


両親が残した“想い”。

名前も書かずに託された、親友の“メッセージ”。


それだけが、今の俺をつなぎとめている。


夢はもう、決まってる。

──両親が果たせなかった会社経営を、俺が継ぐこと。


ノートを抱きしめ、俺は小さく息を吸い込んだ。


「これが……俺の、夢なんだ」


最後の記憶が、自分のことだったら。

嬉しいはずなのに、それが「別れ」だったら──


親友の言葉が、心に残って離れません。

「初めましてって、何度でも言ってやる」


忘れられても、失っても。

それでも“もう一度”を信じて、想いを託す人がいる。


涙が止まらなかった、そんなあなたの感想を聞かせてくれると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る