第4話 ご飯
「仲介、」
「んえ、」
朝。
「仲介、」
「…………。何故ここにいる。」
「朝ごはんです。行こう。」
雑用が勝手に部屋へ入って来やがった。
仲介は構わず、ゴロンと雑用とは反対方向に寝返った。布団の皺が寄る。
「仲介……。みっともない。」
「ひっぱるな……!いらん。朝ごはんなど、食うても意味ない。」
布団を引っ張られる。けっこう力強い。小供のくせに。
「僕は長に言われた。」
「知らん。どっか行け。」
「行かない。」
「行け。」
「行かない。」
「……ゔぅん、もう……!」
――――――――――
仕方なくご飯の間へと向かった。弱い光が入った廊下を歩く。
「お前、私を仲介と呼び捨てするな。」
「……だって、仲介の位が分からないから。」
「……はぁ。敬語も使え。雑用が。」
私の後ろをせっせと歩いている。
「そんな掟ない。」
「これだから、雑用は好かん。」
――――――――――
「…………。」
もぐもぐと雑用が隣で食べている。
「……あれ、仲介、食べないの。」
「あぁ、全部嫌いだ。」
怪訝そうな口をしている。小供みたいだ。
「好き嫌いはだめだよ。ほら、食べなきゃ昼まで持たないよ。」
「いらんいらん。お前にやるよ。」
「ほんと……ゔぅん、ほら、食べて。」
「いらん。」
「食べて。」
「いらん。」
「食べてよ。」
そんな目で見るな。虫唾が走る。
「分かったよ。」
――――
食べたくないのに食べてしまった。あいつめ。うぅーん、胃酸が暴れている。やめておくれ。
「……ぅ、」
――――――――
「仲介ー、仲介ー。」
昼。
「仲介……どこ。もうお昼の時間なのに。もう……。」
昼といってもおやつ時だ。陽が暖かく元氣な時間。
「……あ、いた。」
最上階の窓から空を眺めていた。キセルをぷかぷか吹かしながら。
「仲か……、」
呼ぼうとした。
違和感。違和感が頭に働く。空を眺めていたのでなかった。あれは、地面を眺めていたのだ。
「仲介、なにしてるの。」
「……なんだお前かどっか行け。」
ここで声を上げると客に聞かれてしまう。
「ご飯、食べよう。」
「…………。」
無視された。今度は空を眺めた。これは"普通"だった。
「…………。」
僕も外を眺めた。瓦屋根が続く町を見たんだ。生ぬるい梅雨の風が頬を撫でる。
「……仲介。」
「なんだよ。」
口をつぐむ。
「なんでも。」
――――――――――
「ほら、仲介、あーん。」
「やめろ。私は赤子ではない。」
レンコンを仲介にあーんする。
「じゃあ、食べてよ。」
「……嫌だ。」
「なんでかなぁ?仲介や。」
お香の匂いが鼻の奥に入る。長だ。何故ここに。雑用のご飯の間に。
ざわざわ
辺りが騒ぐ。
「仲介や、何故そんなに拒むのかえ?ご飯を食べるのは良いことじゃよ。」
膳をひっくり返してやろうか。長の上等な着物が舞う。
「……。」
「そう目を逸らすでない。なんじゃ、もしかして皆と食べるのが嫌なのか。」
また目について言われた。目は隠しているはずなのに。
「そうです。」
一人となると、食べたフリができるかもしれない。
「分かった分かった。そうしよう。じゃが、今日はここで、」
長の口が動く。
「全部、」
八重歯が光る。
「食べてもらうぞ。」
――――――
「…………う、」
結局、長がつきっきりで食べ終わるのを待ってくださった。本当にありがたい。
「仲介、大丈夫、」
「……ほっとけ。」
自室へ入る。
「…………。」
もう無理だ、限界だ。体の手の先、足の先、頭のてっぺんまで氣持ち惡い。
「…………うっ、」
べちゃ
また吐いてしまった。情けない情けない。
「情けない……」
「仲介……!」
雑用が部屋にいる、なぜいるんだ。
「どっか行けどっかいけ。ぅ、おれのことなんか、……ほっといてくれ。」
「長に報告……!」
雑用は床を鳴らしながら、走って行った。
「うぅ……っ、ぐす。」
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