第8話 ウワサ集め


 月曜日のお昼休み。

 ぼくは、早速みんなにトンカラトンについて何か知らないか聞いてみることにした。

 ひっそりと、目立たないように、だ。これはぼくと水間さんが内緒で調べることだからだ。


「ねぇねぇ」


 ぼくはろうか側のとなりの席の人潟ひとかたくんに声をかけた。


「ん?」


 給食から顔を上げて、人潟くんが僕を見る。その目の色は茶色に見える。

 人潟くんは、たいていの場合正面を向いていて、今ぼくを見るたいせいも、少しだけ首を動かした状態だ。


「あのさ、トンカラトンって知ってる?」

「トンカラトン?」


 人潟くんは、不思議そうな声を出した。知らないようだと思っていたら、ぼくは後ろから肩を叩かれた。振り返ると、後ろの席の山瀬やませくんがぼくを見ていた。


「それって、自転車に乗ってる、包帯がグルグル巻きの?」

「知ってるの? ぼ、ぼくは名前しか知らなくて。詳しく教えて」

「うん。あのね、ぼくの兄貴が中学校で聞いてきたんだけどさ、自転車で街の中を走ってるんだって。一人のこともあれば、大勢のこともあるみたい。で、ばったり会うと、言ってくるんだって」

「なんて?」

「『トンカラトンと言え』って」

「トンカラトン……」

「そう! それでもし、『言え』って言われる前に『トンカラトン』って言ったり、他の話をしたり、『言え』って言われてるのに黙ってたりすると、日本刀で切り裂かれて、そいつも新しいトンカラトンにされちゃうんだって! 怖いよなぁ……兄貴の同級生が見たんだってさ!」


 ぼくは初めて知ったトンカラトンのくわしい都市伝説を、頭の中に必死でメモした。


「山瀬くん、教えてくれてありがとう」

「いいってことだよ。ぼくも誰かに話したかったんだよねぇ」


 山瀬くんはニコニコしている。たしかに〝ちゅういかんき〟は大切だ。

 うなずいてから、ぼくは人潟くんにも顔を向けた。


「人潟くんもありがとうね」

「ううん。そうか……トンカラトン……自転車に乗って外にいるなら、学校にいれば安心だね」

「そうだね」


 たしかに、校舎の中には出ないだろうし、小学校は自転車での通学はしないから、そうぐうする危険はほとんどないだろう。だけどぼくは、それでは困る。なんとかして、居場所を探さないといけない。そして図書室ピエロにつながる手がかりを見つけるのが、ぼくと水間さんの使命だ。


 その内に、給食の時間とお昼休みは、終わってしまった。

 なかなかの成果だと思う。




 放課後になって、ぼくはまぁまぁの〝しんてん〟だと考えながら、靴箱へと向かった。

 そして外履きを取り出した。


「ねぇ」


 すると声がした。平らな声で、山も谷もない。

 振り返ると、そこには哀名が立っていた。僕は二つの意味でドキリとした。

 一つは、好きな子に声をかけられて嬉しかったからだ。

 もう一つは、もしかしたら占いで何か悪い結果が出たのかと不安になったからだ。


「なに?」

「トンカラトンを探しているんでしょう?」

「どうして知ってるの?」

「お昼休みに話しているのが聞こえたの」


 哀名の今の席は、人潟くんの前の席だ。聞こえても不思議はない。なっとくして、ぼくはうなずいた。


「うん。そうだけど」

「さっき、カードで占ってみたの。そうしたら、来週の火曜日までは、きさらぎ駅の裏の通りを曲がったところ、今は閉まっているお店が多い、〝シャッター通り〟の歩道を走っているみたい」

「えっ!? 本当!?」

「ええ。カードは嘘をつかないから。間違ったとすれば、それは私が読み方を間違ったときだけ」

「……す、すごい。ねぇ、来週の火曜日ということは、次の日曜日までは、トンカラトンはそこにいる?」

「カードはそう言っているわ」

「ありがとう、哀名」


 これは、とてもよい情報だ。嬉しくなって、ぼくは笑顔を浮かべた。すると哀名が小さく首を振る。綺麗な長い黒髪が揺れた。


「楠谷くんは、どうしてトンカラトンの居場所を調べているの?」

「そ、それは、秘密なんだ」

「そう。それなら、帰ったら占うことにするわ」

「えっ……」


 それでは、今言ったとしても、言わなかったとしても、哀名にはわかってしまう。

 ならば秘密にしてもらえるようにお願いするには、今話したほうがいいだろう。

 ぼくは頭のうを回転させた。


「あ、あのね。だれにも言っちゃダメだよ?」

「ええ、約束する」

「実は……ぼくは、図書室ピエロを探していて、その情報を集めるために、図書室ピエロのことを知っていそうな都市伝説のお化けのウワサを集めてるんだ。水間さんっていう人のお手伝いをしてるんだ」

「図書室ピエロ?」

「うん。もしかして、図書室ピエロのことも占ったらわかる?」

「試してみる価値はあるとおもう。だけど、必ずわかるかは私には断言できない。それは、カード次第だから」

「カードもばんのうなわけじゃないんだね」

「ええ」

「早速占ってほしい! 水間さん、本当に困ってるんだ」

「この辺りだと……どこかテーブルがある場所……」


 哀名が学校の中に振り返る。だが学校で哀名と二人でいたらとても目立つ。

 ぼくと哀名がいるところを見られたら、ぼくまで浮いてしまうかもしれない。

 そこでぼくは、外を見た。


「そこの神社のところの、小さい公園のベンチは? テーブルとやねがある!」

「ええ、いいわ」


 こうしてぼく達は、一緒に靴を履いて、生徒玄関を出た。




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