第11話 拓海と緑⑤

 鍵を開けて家に入る。

 同居人がいようが、いまいが、ただいま、とか言わない。


 シャワーの音がする。

 いるのか。


 その辺にリュックを置いて、冷蔵庫を開ける。

 相変わらず、お酒しか入ってない。

 もわっと湯気が広がってきた。


「おぉ、驚かせるなよ、緑、帰ってたのか」

「まぁ」

「生理か?」

「うん、ちょっと寝るから」


 部屋に入って、布団に潜る。


 思い出しちゃう。


 福ちゃんは、茜っちに呼ばれて家に帰った。

 次はいつ出社するか分からないとか言って、連絡くれるって言ったのにまだ無いし、別れ話とかしてんのかな。早く別れちゃえばいいのに。


 最後に、まじ、きもい!うざい!ムカつく!って言っちゃった。

 言い過ぎたかな。


「ちょっと、いいか?」

「いきなり入ってこないでよ!」

「機嫌わりぃとこ、悪いけど、俺、出掛けてくるから、で、デリバリー頼んじゃってて、受け取って。食べちゃっていーから」

「ごち」


 すらりと背の高いイケメン。

 たっくんのスーツ姿は、いつみてもいい。




 シャワー浴びたかったけど、デリバリー来るまで待っていたら、携帯がなった。

 社長からのメッセージ……


『緑の好きなどら焼き持って、うろうろしてる福ちゃん』


 そして、福ちゃんの後ろ姿の写真が添付されていた。


 会社にいるんだ!


 急いで出掛ける支度をした。


 靴を履いてたら、デリバリーの人が来た。


 受け取って、配達のお兄さんと一緒にエレベーターで降りる。


 なんか、すごくいい匂いのするコレは、福ちゃんと一緒に食べようっと!




 □□□□




 スタジオに這いつくばってる無数のコードを一生懸命まとめてる、福ちゃん、うける。


「そんな必死に片付けても、すぐ元通りになるよ」

「緑さん」


 今、一瞬、喜んだよね。私のことみて嬉しそうだったよね。


「それでも、一度、元に戻すのがいいかと思います」

「真面目だね」

「緑さんも真面目にノート、取ってるじゃないですか」


 あ、私のメモ帳。


「見たの?」

「少しだけ」


 別にいーけど。


「お腹空いてない?コレ一緒に食べよう」

「あ、どら焼きがあったんですけど、すみません。もうなくて……」

「えー!」


 そうは言ったけど、嘘だよ。別に要らないよ。


「それは何ですか?」

「さあ」

「さあ?」


 見たことない、汁なし麺だった。

 一つしか入ってないフォークで食べて、福ちゃんにフォークをパス。


「なんか、不思議な味がする」

「どうしてこれにしたんですか?」

「私が頼んだんじゃない」

「誰が頼んだんですか?」

「一緒に住んでる人」

「家族ですか?」


 パクチーはいいけど、レモンがちょっと要らないかも。


「家族……では、ない」


 福ちゃんも、コレ好きじゃなさそう。


「二人でひとつでよかったね、一人じゃ全部食べきれなかったかも」

「そうですね」


 ゴミを捨てて戻った。


「ジュースならありますよ」

「あ、好きなやつ、ありがと」


 福ちゃん、機嫌悪いのかな。


「茜っちと別れたの?」


 ビックリした顔でこっち見た。


「いえ」

「ふーん」


 別れ話じゃなかったのか。


「じゃ、なんで元気ないの?」

「元気ですけど」

「なんか、怒ってる?」

「怒ってませんけど」

「あっそ」


 せっかく急いで会いに来たのに、福ちゃんってば機嫌が悪い。

 デリバリーの料理がよっぽど気に入らなかったんだな。

 あれを頼んだのは私じゃなくて、たっくんなのに。


「緑ちゃーん!来てくれたんだねー」

「社長!メッセージありがとうございました」


 遠くから手を振った。ここの社長は、社長っぽくなくて好き。


「社長に呼ばれて来たんですね」

「呼ばれたって、言うか、まーね」


 このままだと、ずっとおしゃべりしてたくなっちゃうから頑張って立ち上がる。


「さ、お仕事しよ!」

「はい」


 それから何時間立ちっ放しだったかな。

 足、パンパン。つりそう。


「福ちゃん、おんぶ」


 冗談で言ったのに、福ちゃんは背中向けてしゃがんだ。


「ん」って言って待ってる。


 わーい!背中に飛び乗る。


「で、どこ行くんですか?」

「どこでもいい、お腹空いた」




 定食屋っていうの?こうゆうとこ初めてきた。


「緑さん、何にします?」

「えっと、唐揚げの甘酢あんかけにしようかな」


 福ちゃんが注文してくれた。


「あの、一緒に住んでる人って、男の人ですか?」

「そうだよ」

「付き合ってるんですか?」

「付き合ってない」

「家族じゃないんですよね」

「そだよ」


 たっくんのことが気になるのか。


「今度、会わせてあげるよ」

「はあ」


 私は茜っちのことが気になるよ。


「次はいつ帰るの?」

「決めてませんけど……近々……」

「ふーん、何しに?」

「話しに……です、かね」


 出てきた料理は何皿もあって、お腹がいっぱいになった。


「知らなかったー、めっちゃ美味しかった」

「緑さんは、もうちょっと食べる物、選んだ方がいいですよ」


 説教臭いと思ったけど、うざくも、きもくも無いから、言わなかった。


 珍しく電話が鳴った。


「もしもし?」


 たっくんが、家の鍵を持って出るのを忘れたから、家に入れてくれと言う。


「しょうがないなぁ、今から行くから、少し待ってて」


 電話を切った。


「どこに行くんですか?」

「家」



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