第三章 血の初日、和解の死
暁の鐘とともに、柔然の第一波が来た。
太鼓と角笛が
楊は兵にあらかじめ伝えていた。
「やつらは北東の壁を弱点と見てくる。わざと隙を作れ。誘い込んで、火を放て」
敵が殺到する中、仕掛けられた油と火薬が一斉に
柔然の
その混乱のさなか、
それは、戦神が滅ぼした邪神の骨より鍛えられたと伝わる破邪の聖槍。約二・五丈の騎乗突撃
穂先は炎を帯びるように赤黒く輝き、槍が振るわれると「破軍星」の紋が瞬く。
柄には金の環が連なり、衝撃で音を立て敵を威圧する。
「
槍が雷光を帯びる。――陽は槍を高速回転させて前方をなぎ払い、前線を一撃で突破。敵は恐慌に陥った。
それは同時に、周囲の魏兵の士気を高揚させる。
柔然の陣形が崩れ、入り乱れる。そのとき――、
陽は裂邪を
「副将の首……距離五十歩、右から三列目……」
暁雷から放たれた矢が
矢は副官の眉間を見事に貫いた。顔を血で染めた副官は即死。その体は、だらりと馬上から落下する。
「副官がやられた!」
柔然の兵たちに、さらなる動揺が広がる。
陽は、再び裂邪を手にすると敵軍へ突撃する。穂先が炎のごとく赤く輝き、敵陣を断つ。
楊の姿に兵が続き、敵の第一波は潰走。
柔然の騎兵は――、
「目を見ただけで足が止まった」と、語るほどだった。
――やはり、将軍についていってよかったのかもしれない……。
賀進は、感慨をあらたにした。
陽は、眉間を射貫かれた副官の遺体を、呪いの人形のごとく城壁に
「これが貴様らの末路だ」と、柔然を警告する儀式的行為だった。
◇ ◆ ◇
夜は夜で、城壁から
「常に監視されている」という心理を敵に植え付けるためだ。
とはいえ、多勢に無勢……。
柔然軍は、豪雨のごとき矢ぶすまで
陽の暁雷で射貫かれた敵は次々と転落。下に続く者も巻き込んでいく。
魏兵たちも焚火や矢で必死に応戦。敵を
矢ぶすまを完璧に避けることは至難のわざだ。まして、夜間で視程がごく短い。
一人、また一人と魏兵は負傷していく。
そして、ついに柔然の兵が城壁の上へ到達した。彼らの
多数の敵兵が弓で陽に狙いをつけるが、暗闇に紛れて彼は気づかない。けれども――、
賀進は、いち早くそれに気づいた。
――将軍が死ねば、この戦いも終わる……。
不軌の
その一瞬を彼は深く
気づけば、賀進は身を挺して楊を
グフッ! 容赦なく無数の矢が突き刺さっていく。それでも彼は立ち続け、陽の盾となった。
気配に気づいた陽が暁雷で敵を蹴散らす。それを待っていたかのように、賀進の体がばたりと倒れた。
「すまぬ……」
駆け寄った楊が握ったその手は、すでに冷たかった。死してなお、賀進は立ち続けていたのだった。
そして明け方。
清めた賀進の遺体の前に立つ楊。その背中に朱蘭の声が届く。
「あなたの目が人を殺すだけのものなら、なぜ……泣いているのですか?
そんなあなたを、人は“鬼”と呼んだなんて……」
陽は沈黙を貫いた。
その後背には、見えざる炎が渦巻いていた。
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