灰は灰に、塵は塵に
@M-D
復讐は成った
ささやかな、私だけの復讐は終わった。
──いや、復讐と呼ぶのもおこがましいかもしれない。
自分でも忘れかけていた、燻るようなフラストレーションの残り火。
それを再び燃え上がらせ、ただ力任せに投げつけただけのこと。
「復讐は成った」
その言葉に何かを返そうとしても、もう私はそこにはいない。
私は、私の行為に対する反応を欲してなどいない。
意味なんて初めからなかった。目的もなく、誰かのためでもない。
私が、私の中の不快を減らしたかっただけのこと。
投げた瞬間に終わっているのだ。
けれど人は、そうした無意味さを恐れる。
だから、私の言葉を目にした者たちは、それを勝手に反芻し、意味を探すだろう。
自分勝手な怒りや不快感、軽蔑すら添えて。
その時点で、私の言葉は「効いた」ということになる。
──成功の合図だ。
好きに罵ればいい。
私が身勝手だったことくらい、私が一番よく知っている。
その言葉に何かを返そうとする者がいるとしたら、
──それはそれでご苦労なことだ。
私はもうその舞台から降りた。
反応も釈明も興味がない。
それでも、誰かの心にほんの小さな爪痕を残せたのなら、それでいい。
どうせその傷はすぐに消える。だが、私の中の苛立ちは、もう消えていた。
「復讐は成った」
私は矮小で、臆病だ。
ただ、それだけで救われることもある。
たまには感情をぶつけたっていいじゃないか、と、そう思えたのだから。
もう振り返るつもりはない。
すべては捨てたと決めた過去だ。
──だからこそ、あのささやかな嫌がらせを思いついたのかもしれない。
誰にも迷惑をかけず、自己満足だけで完結した。
いや、もしかしたらちょっとは迷惑だったかもしれない。
それなら、なお良し。
どうせ私は、もうここにはいないのだから。
これぞ、誇るべき小物っぷり。
臆病者の嫌がらせ。
それが何か?
ハッハッハ、見事な人間性だろう?
──褒めてくれても、いいんだぞ?
灰は灰に、塵は塵に @M-D
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