第4奏パート5後編Scene 4:Where Light Falls, We Meet Again ― 空高く映る光月と、静かに寄り添う惑星の下で ―
街の広場に突如として響いた悲鳴と轟音。
その数は十を超え、二足歩行のゴブリンや、鋭い牙を剥いた魔狼、さらには屈強な巨躯のオークまで混じっていた。彼らは群衆を蹴散らし、石畳を振動させながら暴れまわる。
異様な気配が広がった瞬間、街中の人々が一斉に逃げ惑う。
──その光景は「仮想世界」という言葉を完全に忘れさせるほど、あまりに現実的だった。
泣き叫ぶ子供や祈る老人の姿は、「仮想」を忘れさせるほど現実的だった。
「っしゃあ! 初戦から派手じゃねぇか!」
陸が声を上げ、剣を構えて真っ先に飛び出す。
体が勝手に動くような感覚に驚きながらも、彼は笑っていた。
「うおおおおおっ!」
豪快な突撃。
振り下ろした大剣がオークの分厚い腕を弾き飛ばし、衝撃で周囲の石畳が砕け散る。
「なんだこれ……現実以上に動ける!」
陸の顔には少年のような笑顔が広がっていた。
一方、僕は背中の弓を構えた。
視界がいつもよりも鮮明で、遠くの敵の動きすらゆっくりに見える。
(……俺って、こんなに目が良かったか?)
心の中で呟きながら矢を番える。
次の瞬間、身体が自然に動いた。
狙うまでもなく矢は放たれ、ゴブリンの眉間を正確に撃ち抜いた。
「……っ!?」
驚愕と同時に全身を駆け巡る高揚感に心臓が跳ねる。
僕の矢は、まるで熟練の弓兵のような正確さを持っていた。
「湊、陸さん! 右側に狼型が来ます!」
ノゾミの声が響いた。
彼女は両手を広げ、詠唱を開始する。
「降り注げ──〈魔降兵器:ルミナス・ランス〉!」
光の粒子が集まり、宙に浮かぶ巨大な槍へと変わる。
それが魔狼を直撃すると、青い稲妻のような閃光が走り、獣は地面に沈んだ。
「はぁ……すご……」
思わず息を呑む僕の隣で、ノゾミは小さく微笑んだ。
「大丈夫、まだ序の口だよ♪」
戦闘は一方的だった。
陸は体育の授業で汗を流すかのように、次々とオークをなぎ倒し、僕は矢でゴブリンを射抜き続ける。
ノゾミは支援と回復を絶やさず、時に光の魔兵を呼び出して仲間を守った。
気づけば広場に残るのは、倒れ伏す魔獣たちと、喝采を送る人々の声だけだった。
「「「うおおおおおっ!」」」
広場全体が歓声に包まれる。
「やべぇ、最高すぎる!!」と広場に大の字で倒れ込む陸。
僕は肩で息をしながらも、確かに実感していた。
これはただのゲームじゃない。
──本当に戦って、本当に生きている。
「湊!」
ノゾミが駆け寄ってきて、座り込む僕に手を差し伸べて起こしてくれた。
僕は……
君がそこに居てくれるこの現実が、何より嬉しかったと、胸の奥で強く思った。
やがて戦いが終わり、広場には拍手と歓声が響き渡った。
泣いていた子供が笑顔を取り戻し、兵士達が感謝の言葉を口にする。
その中心に立つ僕達3人に、温かい視線が注がれていた。
その横を通りながら、僕たちはギルドへと向かった。
戦いの余韻を残したまま、陸は興奮を隠しきれない様子で口を開いた。
「なぁ、なぁ、湊! 俺、あんな動き現実じゃ絶対できねぇ! 剣振ったら勝手に体がついてきて、力もスピードも段違いだったんだよ!」
「……確かに。俺も、目が異常に良くなってた。矢が勝手に吸い込まれるみたいに当たってたんだ」
「ふふっ。お二人とも、それは私がエンチャントで補助していたのもありますが──」
ノゾミが笑顔で説明を続ける。
「この世界では“イメージ”が鍵。思い描いた通りに体は動きます」
「イメージ……」
「はい。もちろん物理法則を完全に無視することはできませんが、レベルが上がれば“舞空術”や“虚空瞬動”くらいは可能になりますよ♪」
そう言うと、ノゾミは笑顔で指をヒューイヒューイと空に舞わせてみせた。
彼女の仕草に、僕と陸は思わず吹き出す。
「マジかよ!? じゃあノゾミちゃんなんて、もう無敵じゃん!」
陸が身を乗り出す。
ノゾミは慌てて首を振った。
「いえいえ、私は皆と同じプレイヤーとして楽しみたいので、性能は一般魔降技師レベルまで落としています。……てへっ♡」
ノゾミが舌を出しておどけた仕草に笑うと、
陸は「あははは、可愛すぎだろ!」と声を上げ、陸はますます笑い転げた。
「でも……魔降技師自体が超レア職だよね。普通にすごいよ」
「そうそう! 攻略サイトでも聞いたことねぇ!」
僕と陸が顔を見合わせると、ノゾミは少し真面目な声色で答えた。
「こふぉん、私がアクセスした限りでは……UKに1人、同じ職業が存在するみたいですね。彼は……」
「マジか……!」
僕と陸は顔を見合わせ、ただ驚くしかなかった。
ギルドに到着すると、そこは戦士や魔導士で賑わう巨大な酒場のような空間だった。
壁には討伐依頼が貼られ、カウンターでは受付NPCが笑顔で迎える。
「討伐イベントの報酬ですね。こちらをお受け取りください」
差し出されたのは三つの光るアイテム。
「……吸血の教示者」ノゾミが手に取る。
「矛盾……って書いてあるぞ!」陸が声を上げる。
「俺のは……救済者の聖骸布?」
僕も戸惑いながら手に取った。
「これ、やばくね!? SSRアイテムだろ!」
陸の目は輝いていた。
「陸さんの“矛盾”は最大のピンチでこそ輝くアイテムですね。」
「俺にピッタリじゃん!」
「私は……あまり使わない方がいいでしょうね。得るものより失う代償が大きい気がします。」
ノゾミが少し寂しそうに微笑む。
「湊のはクラスチェンジに関わると思います。大切にしていてください。」
「……分かった。」
鐘の音が街に響き渡る。
それは規定の二時間が経過し、ログアウトの時を告げる合図だった。
「もう……時間か」
僕が呟くと、ノゾミが穏やかに頷いた。
「うん。でも、またすぐに会えるよ。──次の冒険を楽しもう。」
視界が白に染まり、光に包まれる。
現実へ戻るその瞬間まで、僕の心臓はまだ高鳴り続けていた。
刹那──
空を見上げた。
そこには巨大な月とリング状の天体が輝き、見慣れたはずの世界とは全く違う幻想が広がっていた。
ノゾミがそっと僕の手を握る。
「……そう。ここもまた、ひとつの現実なんだよ。」
僕は……
君が居てくれるなら、
今は。
それで十分だと思えた。
次回予告!!
初めての勝利。
仮想空間と現実世界の境界とは?
これらの体験から目覚めた湊の瞳に映る世界とは!!?
16歳の夏休みは走り出す!!
何人たりとも奪う権利の無い、青い果実の蜜を。
一緒に味わってみては如何でしょうか?
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