第8話 蝶月
あの人は空を見ながら、父との出会いなんかを話してくれた。
早くに両親を亡くしたあの人は中学を卒業して紡績工場に働きだした。
夜間の高校を卒業して一度は結婚したそうだが、結婚相手は跡取りだったそうで
子供ができないことを責められて離婚するしかなかった。
離婚して女ひとりで暮らしいくのは難しかったそうだ。学歴や親がいないことで事務員などは全く雇ってもらえなかった。
困っている時に、喫茶店のウェイトレスの募集の張り紙を見つけた。
住み込みでもいい、賄いつき。あの人は飛びついたそうだ。
そこのマスターもママさんもよくしてくれてあの人の心も落ち着き始めた頃。
毎朝、モーニングコーヒーを飲みに通ってくる父と出会った。
挨拶から何気ない会話、そして食事に誘われた。
あの人にとって父は早くに亡くした自分の父を連想させたようだ。
そして凛ちゃんの妊娠。
あの人は一人で育てようと決心したらしい。家族のいないあの人にとって凛ちゃんはたったひとりの肉親だから。
あの人は父とは別れるつもりでいたが、父はそうしなかった。
そう、父はあの人と凛ちゃんを選んだのだ。
父が家を出たのは私が高校生の時だった。
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