第4話 胡蝶

行くつもりは無かったのに火葬場に行く羽目になった。

どうしたってあの人に挨拶しとかなきゃ。気が重い。

「あのう、私、、、。」

「正太郎さんの娘さんですね。ご尚香の時にわかりましたよ。今夜はありがとうございました。」

彼女は丁寧に頭を下げた。

わかってたんだ。肝がすわってるわ。私なら動揺しちゃうのに。

下げた首筋がかぼそくて妙な色香がある。それに喪服の着物が拍車をかけてる。

確か35歳って聞いてたけど。この歳の女ってこんな色香があるのかなぁなんて

ぼんやりしていた。

「あのう、何か私に御用があったのではありませんか?」

その声にビクッとした。

「あ、あのう、、。こんな時に言いにくいのですけど。父の遺骨を、、。

そのう、こちらで引き取らせて頂きたいのです。」

「、、、。そうですか。」

「あの、分骨しませんか?今は全部のお骨を引き取る訳ではないですし。

そちら様にも父の思い出はあるでしょうし。」

「そうですね。でも正太郎さんは代々のお墓があるんですわね。そこにはご両親も眠っていらっしゃる訳で、、。どうぞ、よろしくお願いします。その方が寂しくないでしょう。」

意外だった。ごねるんじゃないかって思ってたのに。

「では、火葬場までご一緒しましょうか。」

「はい。私は車を運転して来ましたから、自分で向かいます。」

あっさりした彼女の対応に死んだらこんなもんなのかって白けた気持ちがした。



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