【5】鈴木 ―「君が書いた物語の扉に、触れた気がした」

「読んだり、してないよね?」


彼女にそう聞かれたとき、一瞬迷った。

けれど、嘘はつきたくなかった。


「うん。読んでない。表紙だけ。……でも、なんとなく中身の温度はわかった気がする」


そのとき、彼女が小さく笑った。

初めて見る、ほんの少しだけ解けた笑顔。


「好きな本の感想、全部詰めてあるの。たぶん、私のこと、ほとんど書いてある」


まるで、“中身を読んでもいい”って許されたような気がした。


その瞬間、彼女の物語に、僕のしおりがそっと挟まれたような気がした。

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