【3】鈴木 ―「ふわりと、物語がめくれた日」

その日、僕はひとりで駅前の喫茶店にいた。

流れるBGMも、窓の外の風景も、何もかもが灰色だった。


だけど、彼女が通り過ぎた瞬間だけ、

世界が色を取り戻した気がした。


黒髪のロング。黒のブレザー。

視線を交わしたわけじゃないのに、彼女の存在だけが焼きついた。


それから僕は、彼女の気配を追いかけるように、図書室に通いはじめた。


それは、知らなかった物語の最初のページを、そっとめくるような行為だった。

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