day7「あたらよ」

夜の旅人

 長らく続いた冬至祭は終わりを迎えようとしていた。

 祭りで賑わう街を抜け出したのは、果たしてどちらの判断だったか。とにかく、わたしとウルスラは酔っ払いや、走り回る子供たちを掻き分け、顔馴染みの守衛に軽い挨拶を交わして、町の外に出た。

 しんと静まり返った、一面の銀世界。

 そして、夜空に揺れる極光。

 もうじき、見納めとなる光景を目に焼き付けんとするかのようにして、わたしたちは二人、雪原に立ち尽くした。白い息を吐きながら、互いの手を強く握りしめながら。

 緯度が高いこの街は冬至の前後、太陽が昇らない極夜を迎える。冬至祭は、極夜の終わり、太陽の再来を祝うものだ。

「エイダ、わたしやっぱり……」ウルスラは言った。淡い水色の瞳が、揺れている。「ごめんなさい。わたしは一緒に行けない」

 わかっていたことだった。彼女には彼女の人生がある。あの街で、家族と共に暮らす人生が。根無し草のわたしとは違う。同じ時間を過ごすことはできないのだ。

「来年も来るんでしょ?」

 ウルスラの問いかけに、わたしは曖昧に微笑んだ。約束などできるはずがなかった。わたしはその日暮らしの気ままな旅人であり、いつ路傍で朽ち果てるともわからぬ身だった。

「わたし、待ってるから」

 ウルスラは言った。そのような言葉をわたしは何度裏切ってきたことだろう。わからない。きっと長く生きすぎたのだ。だから、いつしか数えることをやめた。

「さよなら。元気でね。いつだっていい。またこの街に寄ることがあったら、旅の話を聞かせて」

 その言葉を最後に、わたしたちは別れた。痛いほどの視線を背に、わたしは翼を広げ、極光に向かって飛翔した。

 さよなら、と独り言ちる。さよなら、極光。さよなら、夜が明けない町。さよなら、人間の少女。

 わたしはこれから南へと向かうだろう。さしあたっては、夜が明けるまでに宿を取らねばなるまい。この身が灰とならないように。

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