day6「重ねる」

ぬくもり

 手と手が重なる。重ねてみる。そこにあるはずのぬくもりを想像しながら。

 何も感じない。手を重ねたという事実のみが認識される。

 ご主人様が手を重ね返してくる。ご主人様の右手にわたしの右手、そしてご主人様の左手が重なる形になる。

「ありがとう」とご主人様は言った。「慰めてくれるのね」

 慰める。そうなのだろうか。データベースでその意味を検索しながら考える。

「ありがとう」ご主人様は繰り返す。「いつも傍にいてくれて」

 ご主人様の顔は黒いヴェールに覆われている。表情はよく見えない。

「それがわたしの役割ですから」無難な定型文を出力する。「いついかなるときも、わたしはご主人様と共にあります」

 わたしはご主人様の左手の上に自分の左手を重ねた。ぬくもりは感じない。機械の冷たい指がご主人様の熱を奪ってしまわないか、それだけが心配だった。

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