暗雲

ふと勉強中に窓を見た。

一瞬の違和感

それに気づくのに数秒の時間を要した。

普段は煩わしいほどに窓ガラスへとへばりつく虫が1匹たりともいなかったのだ。

空を見上げてもけっして不可思議な色ではなく、ごく当たり前の夕暮れの茜空だった。

と、これまで気にとめていなかったものが耳を叩く。

雷が鳴っていた。

遥か遠くの空で。どれ程先だろうか、数キロいや数十キロ程だろうと検討をつける。

昔から耳はいいほうだ、多少なりともの自身と共に再び視線をノートの上の数式に戻した。

けれど頭にはそれが浮かばない。

何故だろうか。

先程まである程度は集中していたはずだ。

それは過信だったのかと自らを疑うが、やはり違う。

改めて窓を見る。先程と変わらぬ光景

首を傾げながら少し気分を入れ替えようと携帯電話に手を伸ばし、天気予報を調べる。

予想していた通り十数キロ先の空で黒雲が暴れているらしい。

今夜の寝付きは悪いだろうなと少し憂鬱な気分になってはたと思う。

「こんなにも雷の音は鮮明に聴こえていただろうか」

いや、そんなはずはなかった。

しかし今となれば耳に届く雲の呻きが煩わしい。

あまり自分の耳のよさと思いの強さには感心しない。

まったく、雨雲など気付かなければよかった。

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