連歌
鴎博
初夏
昔、夏が嫌いだと言った友人がいた。
それはある日の登校中にバス停から歩く中こぼれた言葉だった。
気持ちは分かる。
じめっとする湿気には毎度嫌気がさすし、身を焼くが如く照りつける陽の光はたまったものではない。
けれど夏にはそれに見合う魅力がある。そういって夏の良さを語ろうとしたところで彼に肩をすくめられた。
「僕は冬に炬燵でのんびりしているだけで充分だよ。」
そういう彼はいつにも増して暑そうに着ていたTシャツの裾をうちわの如く手で仰いでいた。
あまり印象にも残らない仕草だった。
しかし当時はまだ6月の下旬、仮に今が平安の世ならばもう夏も終わる頃だが、残念ながら平成の6月は春の終わりと夏の初めの中間に位置している。
ここで暑いと根を上げていては今年の夏を越すことは出来ないと伝えると、彼はさらに表情をしかめた。
少しの間2人とも無言で信号まで歩いた。
猛暑の中車道の向こうが揺らいで見える。
けれど私はそんな彼の顔が好きだから夏は嫌いでなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます