連歌

鴎博

初夏

昔、夏が嫌いだと言った友人がいた。

それはある日の登校中にバス停から歩く中こぼれた言葉だった。

気持ちは分かる。

じめっとする湿気には毎度嫌気がさすし、身を焼くが如く照りつける陽の光はたまったものではない。

けれど夏にはそれに見合う魅力がある。そういって夏の良さを語ろうとしたところで彼に肩をすくめられた。

「僕は冬に炬燵でのんびりしているだけで充分だよ。」

そういう彼はいつにも増して暑そうに着ていたTシャツの裾をうちわの如く手で仰いでいた。

あまり印象にも残らない仕草だった。

しかし当時はまだ6月の下旬、仮に今が平安の世ならばもう夏も終わる頃だが、残念ながら平成の6月は春の終わりと夏の初めの中間に位置している。

ここで暑いと根を上げていては今年の夏を越すことは出来ないと伝えると、彼はさらに表情をしかめた。

少しの間2人とも無言で信号まで歩いた。

猛暑の中車道の向こうが揺らいで見える。

けれど私はそんな彼の顔が好きだから夏は嫌いでなかった。


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