第2話

灰色の部屋の中、目の前のシアターに映る映像をユナ・シュタインは眺めていた。

作戦行動前に大まかな指令を伝えるブリーフィングルームと呼ばれるこの場所は今は人でごった返していた。

ありとあらゆる年齢、体格の制服を着た軍人たちが談笑をしていたその場所は、この映像が流れだしてから静まり返ってた。

「なあユナ、これが一体何だってんだ。」

マリナス・モナ中佐はそれを見てつぶやく。

「公の場では口には気をつけなさい、マリナス中佐。」

切れ長のきつい目が上から目線に睨み付ける。

「でもよお、アームレスト北の猛将がやられてんだぞ?こんなことしてる場合じゃねえだろ。」

そんな刺すような視線すら物ともせずに、飄々と続ける。

「そんなことはわかっている。それよりもこの映像を見ろ。」

言葉を重ねて言い続ける。

「こんなときにそんなこと言ってられっかよ。今は北方戦線のほうが重要だろ。決戦も近いし。」

「だれがそんななどといったのかしら?マリナス中佐。もしかして軍事機密をそんな簡単に教えてくれる人間がいたとでも?」

一瞬の気まずさが沈黙であらわされる。周りの兵士はまたかよという顔である。

「、、、失礼しました、ユナ参謀士官。」

「よろしい、ではこの映像についての見解はあるかね?我が西方指令所のエースたるマリナス中佐。」

嫌味を織り交ぜ、先程まで『こんなこと』と一蹴していた事象について意見を求める。

「、、、正直、あまり芳しくはないな。公国親衛隊ミレニアムパンツァーの連中が出れば撃破も難しくはないかもだろうが、、、、」

求めていた答えが出たことで舌打ちをしながら視線を戻す。

「、、、、つまり私達では対処できないと、、、、」

苦虫を噛み潰したかのような表情で後ろにいる兵士パイロットの一人が固まっている。

「そう言うな嬢ちゃん。どうせ本来此処にいる戦力の殆どが北方戦線に放り込まれてんだ。こんなクソみたいに手薄な時期を狙って出てきたところで対応できねえよ。」

「そうそう。どのみち俺達がやられらぁ、次は公国親衛隊ミレニアムパンツァーが出て来んだ。連中もそれはわかってるだろうよ。」

「まあ、だからといって俺達が出てもお偉いさんの戦死書類を増やすだけだろうがな。」

作戦指揮室の中がどっと笑いに包まれる。

「バカが。私の仕事は貴様らの機体の破損書類だけだ。」

「ははは!!!ちげえねぇ!」

「そん時は家族によろしくな!姉ちゃん!」

「縁起でもねぇ!新人に優しくしてやんなよ!」

「あほう、そんなことをすれば戦力として数に入れれん。」

「つまり心配してくれてるとよ!」

スキンヘッドのいかつい男たちが冗談を言い合っている。戦場ではない、普段の空気。ここにはそれがある。

西方指令所―――もとい、第8機兵戦闘師団は鬼司令、ユナ・シュタインの治めるこ度で有名な部隊だった。常に最前線へ送り出されるため、兵士の錬度は言うまでもなくエース中のエース。ただ、その分荒くれ者たちの集ういうなれば前線戦闘師団というところだろう。

常に硝煙の匂いを漂わせる歴戦の戦士たちが敵機の首を取ってくるその姿は、まさに全国民の憧れであった。

それが、いままでに対面のしたことのない事態に遭遇している。

「まぁ、なにはともあれいますぐ私が死ねとお前たちに命令するようなことはない。今のうちに家族に別れの手紙でも送っておけ。」

「姉ちゃんがそこまで言うたぁなぁ。これは大仕事だぜ。」

「違いねぇ!」

再び部屋の中が爆笑の渦に飲まれる。

「ハァ、、、まったくこいつらは、、、」

「でもよぉ姉ちゃん。」「司令と呼べ司令と」

隊員のツッコミが入るが、気にせずに一人が続ける。

「結局のところいまはまだどうしようもねぇだろ?ここにいる俺達だけじゃあ対処しきれねえっていうんなら、しばらくは様子見か?」

ユナは少し考えた後に、

「そうだ。一応上層部に報告入れておくが、応援は来ないだろう。対象がなにか行動を起こすまでは待機といったところだな。」

その返事をきいたのか、部屋の空気が明らかに落ち込む。

目の前に司令がいるというのに皆すぐに隣のものに愚痴を言い出す始末だ。

「へいへい。わかりゃ―したよ。司令。」

「まーたお留守番かぁ、、、、ねぇねぇ!みんなで後でシュミレーションにいかない!?」

「お!いいな嬢ちゃん!」

「賛成だ!おい!おまえら!嬢ちゃんがみんなと手合わせしたいってよ!」

「そりゃあいいなぁ!ちょうどここんところ警備ばっかで体がなまってたところだ!」

「行くぞお前ら!指令が来る前に席を確保するぞ―!」

大はしゃぎで筋肉ダルマたちが部屋から出ていく。

「ちょ、お前ら!」

司令が一瞬何かを言いかけたようだが、それは誰かの耳に届くことはなく先にみんないってしまった。

「、、、まったく、、、」

ブーリーフィングルームに残された司令は、例の対象について一人対策を練るのであった。

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