第3話
脳裏に情報が書き起こされる。
眠っていた機械が目を覚ますように世界が動きだす。
(作戦行動5分前だ。ブリーフィングを確認しろ。)
脳に直接届くノイズ混じりの通信だが、よく通る声だ。
視界が急激に明るくなる。
モニターの画面が直で脳に投影されていく。
<◇◆◇ブリーフィングを開始します。◇◆◇>
「作戦内容は北部エイトガルテア鉱山の占領。貴下にはその一助として、事後に到着する友軍占領部隊の安全確保のため周辺に配備されている敵性マーシャル及びミガリオの排除を依頼します。
エイトガルテア鉱山付近の緩衝地帯において貴下のミガリオを展開を開始しキャラバンによる降下作戦を実行、作戦行動へ移行。
以降の通信は封鎖し、作戦予定時刻の到達を以て本部隊の共和国連邦への進軍作戦を開始します。
鉱山の占領は、共和国への侵攻の一歩となるでしょう。彼らは国内に鉱山など数えるほどしか持っておらず、ここを叩けば敵国にそれなりの被害を与えることができます。
この作戦の成否は、共和国への侵攻に大いに影響します。
よって、貴下への
ブリーフィングは以上です。それでは健闘を。」
再び世界に暗闇が戻る。情報の残像が頭にこびりつく。
(エイトガルテア鉱山に配備されてるのは、旧型のマーシャルばかりだ。だが数は多い。注意しろ。後衛部隊の奴らは一切手出しもしてこないはずだ。ここは共和国にとって数少ない鉱山拠点の一つだ。それなりに危険が予想される。要は連中にとっては都合のいい捨て駒というわけだ。共和国の鉱物資源の大半は外国からの輸入に頼っている。ここを落としても、作戦上そこまで大きな意味はない。連中も国交がきな臭くなってるのを察して守りを固めてきている。新型の量産機まで実戦配備してまで必死で国境付近に戦力を回して侵攻に備えようとしてるのを見ると、よほどお前が怖いようだな。)
ハンドラーの説明が始まる。わたしは黙ってそれを聞く。
(、、、)
(まったく、、、、連合はお前の価値をいまいち理解していないらしい。)
(、、、)
連邦、というのが今回の雇い主らしい。
(仕事の時間だ。行くぞ。)
(、、、)
羽音のようなノイズが音を立てて途切れる。
同時に体の感覚が戻ってくる。
<カタパルトシステム、ロック解除。>
(、、、)
背中を固定するロックが外れる。シューと、圧縮空気が出ていくような音がなって、支柱と
<油圧計、エネルギータービン、ENSモジュール、各種兵装異常なし。>
(、、、)
<推進剤、充填完了。エネルギーシステム、連結を解除。>
(んぁ、、、)
同時に
(今回の作戦は夜間戦闘だ。サーチライトには気を付けろ。)
<システムオールグリーン。機体連結解除まで、3、2、1>
(、、、)
機体の感覚が一体化する。
<解除。>
(、、、っ)
一瞬の衝撃の後、
輸送ヘリから離れた
いつまでたっても視界は灰色一色だ。
<雲を抜けるぞ、注意しろ。>
少ししたら、雲を抜けた。眼下には敵の鉱山拠点と、その警備部隊がいる。
<危険:ロックオンを検知。>
(基地の広域レーダーに捕まったか。そのまま突入しろ。)
すぐにいくつかの砲台がこちらに照準を合わせ、まばゆい紫電を放ちながらエネルギーの収束を開始する。
<危険:地表付近での発砲を確認>
(対空射撃が来るぞ、回避しろ。)
一瞬のアラート音に身を任せ、すぐに加速する。
瞬間的な加速が、
そんなことお構いなしに急加速を続けてレーザー照射をかいくぐる。
<第一防衛ラインの突破を確認。非戦闘員は退避を開始してください。>
地表付近に近づいてきて、今度は実弾射撃が飛んでくる。
(弾幕を張られるぞ。地表付近まで到達しろ)
機関砲がわたしに照準を合わせる前に地表へ到達する。
<減速ブースター展開。機体速度・および表面温度ともに低下中。>
足先から光が漏れ出て地面との速度がだんだん遅くなっていく。
『ガコン!!!』
重々しい音を立てて足が地面に着地する。
<降下完了。減速装備をパージ。>
付近の地面が衝撃でめくれ上がり、そこに減速ユニットが投棄されていく。
目の前には、鉱山施設を守り固める強固な防壁が立ちふさがっている。
すぐに、敵影を探そうと地面を照らすサーチライトの光が襲ってくる。
(動け。今ならまだサーチライトの範囲外だ。)
そう言われて背面ブースターを起動して機体を加速させる。
地面の上を、滑るような挙動で高速で壁に向かって接近、その後ろからは土煙と紅蓮に染まる光の奔流が尾を引いていた。
<
右手に持っている
同時に両肩についている武装が展開を始める。
(やっと
『ッ!?敵襲!』
正面の壁の右端。そのサーチライトめがけて右手の銃を連射する。
それに気づいたマーシャルの1機がすぐに射線からこちらの位置を特定しようとサーチライトを振りかざす。
(させないっ)
すかさず最大速度で突っ込み、マーシャルを堕とす。
だが、その分背中側から発せられる光の量が増える。
(んっ、、)
見つかった。視界を一瞬眩い光が埋め尽くす。それでも
「ぐあぁぁっ!?」
相手の悲鳴が無線越しに聞こえる。
光の中、一瞬だけ見えた敵の輪郭を左手の武装で切り刻む。
「何ッ!ENブレードだと!?こいつ――――」
「間違いねぇ!
一瞬だけこちらを見たほかのマーシャルをサーチライトごと左肩の
すぐに壁の上から急加速し、基地内部へ飛び込む。
『基地への侵入者へ次ぐ。直ちに武装解除し、投降せよ。さもなくば例外なく排除する。繰り返す。直ちに―――』
広域放送がすぐに聞こえてくる。
(鉱山施設内への侵入を確認した。続けろ、7014。)
鉱山施設の入口まであと少し。
落下途中の
それを確認して左肩の誘導ミサイルを全弾発射する。
「うわぁぁぁ!!!!」
「たっ、助けっ!」
「があぁっぁぁっぁ!!!」
ミサイルに押しつぶされていく敵パイロットの断末魔が聞こえてくる。
足は止めない。そうすれば殺した人間たちに罪を償うことができない。
「死ねぇっ!!亡霊!」
左側からマーシャルよりも一回り大きな影が私を覆う。
敵地で迂闊に前進、ましてや狙い撃ちにされる空中ではあまり推奨されたことではないが、いまここで撃てば私の隣のミガリオにも当たると判断してすぐに前へ向かって回避行動を取る。
すぐに影へ向かって体勢を変えると、
「チッ!避けられたか。まあいい。貴様のような下賤が我ら共和国連邦に楯突こうなど、身の程を弁えろ!!」
そう無線越しに叫びながら攻撃をしてくる
二機ともすぐに着地し、一度距離を取って牽制用にライフルを乱射する。
それに負けずと向こうも応戦してくる。
オレンジの閃光が戦場に幾度も光を撒き散らす。
一度距離を取ったならば、この場合は防戦をする側が有利だ。
攻勢に出ようものなら、距離を詰めにこちらから接近しなければいけない。
こちらから接近をしようとすると相手は距離を保つために後退し続け、こちらの弾は当たりにくくなる。
その結果、強引に近づこうものならその一瞬に相手の機銃掃射によって一方的に蜂の巣にされてしまう。
かといってそれを回避しようものなら左右に動くのみで近づくことはできない。
ならば、どうするか。
世界に名だたる傭兵たちは何かしらこれに対する最適解を持っている。
私にはこの場合の打開策は二通りある。
一つは持久戦に持ち込み、相手がこちらを攻めざるを得ない状況を作り出す。
相手にとって離れていても脅威と思える武装があることが前提条件。
そしてもう一つは―――
「何ッ!?」
回避と接近を同時に行いながら突貫する。
この方法は無茶もいいところだ。普通なら相手が自分の間合いに入るまでに自機が相手の攻撃で破損するか、ジェネレーターのエネルギー供給が追いつかず、回復までの時間で袋叩きにされるのがオチだ。
だが、わたしの機体にはそれらを解決する手段がある。
<オーバーブースト。起動。>
ジェネレーターからのエネルギー過剰供給。いわゆる暴走状態を意図的に引き起こす機能だ。ただし欠点もある。暴走状態のため、その分ジェネレーターに大きな負荷をかけることになる。つまり、弱点たるジェネレーターを冷却のためにむき出しにしなければならないということ。
「ツッ!!」
だがそれはわたしの技術でカバーできる範囲だ。機体を傾け、敵機の銃弾を受け流す。決してジェネレーターへと弾は受け流さない。
<ミサイル着弾まで3、2、1、、、命中。>
もう一つは戦術。オーバーブーストを発動前に敵機をロックオン。曲射型のミサイルを敵機に向けて発射し、その後遮蔽物から横に身を乗り出して敵機の注意をわたしに向けさせる。
すると、元いた遮蔽物の左側にはわたし、右側、つまり相手の背後にはミサイルが迫って来る。いわば、挟み撃ちのような状態を作ることができる。
現代ミガリオの基本戦術は、旋回戦だ。
相手の弾が当たらないように横へ横へと動き続ける必要がある。
その結果、自機と敵機の間を結ぶ中点を起点に円状に旋回し続けながら銃撃をするという光景が生まれる。
相手と距離を取って戦う。これが基本の動作。
基本設計として、多くのミガリオは背面からの被弾を想定して作られていない。
そもそもが前述した通りに正面からの撃ち合いを想定されている上に、ジェネレーター自体の冷却や、ブースターの設置によるエネルギー関係の配管があるからだ。
では、そんな重要部位に被弾するとどうなるか。
「ぐあぁぁっ!!!!!!」
(敵機、ジェネレーターダウン。動力系に誘爆した。離れろ、7014)
装甲の薄い背面部を、ブースターへつながる配管からミサイルの金属片が食い破り、爆風がその中を逆流する。
その結果配管が破裂し内部のジェネレーターが爆風の影響をモロに喰らい制御を失うと同時に爆発する。
弱点を一撃で破壊でき、わざわざ正面から殴り合う必要もない。
(目標の撃破を確認。ミッション達成だ。)
<オーバーブーストを解除。冷却シーケンスへと移行します。>
機体背面部が音を立てて開き、その中から冷却用の金属板が顔を出す。
過剰なほどのエネルギーを生み出し続けた心臓を保護するためにその熱を受けた冷却板は淡くオレンジ色に光っている。
その周囲の空気が、あまりの熱量に光すらも捻じ曲げている。
(以降の占領は、連合の部隊がするだろう。)
主人の通信が聞こえる。
(戻って休め。)
<了解。オートパーロットモードへ移行。基地への帰還を―――>
戦闘の終了を告げる声とともに、私の意識は再び暗転していった。
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