狂戦士と聖女
翌日。昨日のことを思い出すと憂鬱ではあったが、私は仕方なくギルドに向かう。中に入ると早速周囲からは好奇の目で見られ、ひそひそと噂されている(ような気がする)。一日経って噂が収まってくれていたらいいなと思ったが、むしろ広がってしまっているようだった。
「あ、破壊s……シルフィア様! おはようございます」
そんな中、初日に私に対応してくれた受付嬢のミレーヌが声をかけてくる。
「ちょっと、今私のこと変な呼び方しようとしたでしょ!?」
「いえ、何のことでしょうか?」
澄ました顔で否定するミレーヌ。
やっぱり聞き間違えだったかな、と思った瞬間。
「あと変な呼び方ではなく格好いい二つ名と言ってください」
「やっぱり変な呼び方しようとしたじゃない!」
「こほん、そんなことよりも今日はシルフィア様にいいお知らせがあるんです」
勝手に「そんなことより」で片づけるな、と思ったがいいお知らせがあると言われると気になってしまう。
「どうしたの?」
「シルフィア様のパーティー候補を見つけたんです!」
「え、本当!?」
ただでさえギフト持ちという珍しい立場なのに昨日は早速変な噂が広まってしまった。そんな私と一緒にパーティーを組んでくれそうな人がもう見つかるなんて、とちょっと驚く。
「一応確認するけどちゃんとした人だよね? 『ヒャッハー、魔物は皆殺しだぜぇ!!』みたいな人じゃないよね?」
「そんな世紀末みたいな方ではありませんし、一応ギルドではパーティーバランスを考えて紹介していますよ」
「そうだよね、良かった……ん? それ『お前がヒャッハー枠だからそんな人を紹介する訳がない』って意味じゃないよね?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか! ただ攻撃力タイプの方が被るといけないから回復魔法が得意な方を紹介しようと思っただけですよ!」
ミレーヌの態度が若干気になるが、それより回復魔法という言葉に意識が向かう。
「本当!? 新しい仲間は回復タイプなの!?」
「はい、それにシルフィアさんも安心の女性の方です。私はシルフィアさんとぴったりだと思うんですがやっぱり大事なのは当人同士の相性。早速会ってみませんか?」
「はい、是非!」
聞く限り私との相性は良さそうだ。
さすがミレーヌ、私に変な二つ名をつけること以外は普通に有能な受付嬢だ。
「ではこちらへどうぞ」
私は早速彼女に連れられてギルドの奥にある応接室へと向かう。
それにしても一体どんな人なのだろうか。やはりギフト持ちなのだろうか? それともギフトなしでギフトに匹敵する実力を手に入れた人なのだろうか? 女性ということは経験豊富なお姉さんタイプなのだろうか? それとも私と似た、ギフト持ちの駆け出し少女だろうか?
「では心ゆくまでお話して、結果は後で教えてくださいね。それでは」
ドアの前までやってくるとミレーヌはそう言って去っていく。
私は一度深呼吸してから思い切ってドアを開けた。
「は、初めまして……わぁ」
応接室内のソファに座っていた人物を見て私は目を見張った。彼女は昨日ギルドの隅で見かけた修道服姿の少女、喧噪にまみれた冒険者ギルドに咲く一輪の花ことアルティナであった。
年齢は私の一つか二つ下だろうか、色白な肌と人形のように整った顔立ち。きれいな銀色の髪が修道服の黒いヴェールから覗くコントラストが美しい。まさかこんなかわいい子とパーティーが組めるなんて、さすがミレーヌ!
となると後は中身だけど……。
「初めまして、ローレンティア家の長女で駆け出し冒険者のシルフィアよ」
私は貴族時代のように優雅にお辞儀をしながら自己紹介を行う。
「えっと、私は“聖女”ギフト持ちのアルティナと申します。今日はよろしくお願いします」
そう言ってアルティナも丁寧に頭を下げる。
かわいいけど、それにしても“聖女”か。私も授かったのが“聖女”だったら今もお淑やかな公爵令嬢ライフが続いていただろうに。
いや、今は羨ましがっても仕方がない。それよりせっかく年下のかわいい女の子とパーティーを組むことになったんだ。他の人にはどう思われようと彼女には私が噂とは全然違う清楚でお淑やかなお嬢様だと信じさせないと。
「ふふっ、私がローレンティア家の長女だからってかしこまる必要はないわ。今は社会経験を積むために家を出て冒険者をしているところなの。だから緊張せずにお話しようね」
よし、決まった。これできっとティナちゃんも私のことをお淑やかな年上のお姉さんだと思ってくれることだろう(傍らの棍棒から目をそらしつつ)。
「わぁ、そうなんですね。私教会で育ったんで貴族のお嬢様とかすっごく憧れてました! 普段どんな暮らしをしてたんですか?」
「それはね……」
そう言って私はギフトを授かる直前のローレンティア家での優雅な暮らしについて語る。するとティナちゃんは目をきらきらさせながら私の話を聞いてくれた。ああ、何ていい子なんだ。どうにかこの純粋な子を私に対する悪質な風評から守り抜かなくては。
「……という感じよ」
「とってもすごいですね! では何で冒険者になったんですか?」
「それはね、ローレンティア家では見聞を広めるために一度冒険者をやるという家訓があるのよ」
当然そんなものはないが、貴族とは縁遠そうなティナちゃんなら信じてくれるだろう。
「へ~、そんなものがあるんですね。ところでお姉さんはすごいギフトを持ってるってミレーヌさんから聞いたんですけど……」
「ティナちゃん」
「は、はいっ」
「貴族の女社会っていうのはすっごく陰湿でね、常に互いを蹴落とすために悪評をばらまきあってるの。だからティナちゃんはそういう風評を信じてはだめよ」
これは必ずしも嘘ではない。私もよく『清楚ぶっているが本性はゴリラみたいな女』『気に入らないことがあるとすぐキレる』などの風評を流されたものだ。
「そ、そうなんですね。それで本当は……?」
「本当は”
せっかく詐称するなら“賢者”とかが良かったけど、さすがに魔法は使えないので“聖剣士”で妥協する。
が、私の答えを聞いたティナちゃんは困惑した。
「え、”
「そうよ、狂戦士の攻撃力と聖剣士の優雅さを兼ね備えているの」
これならギリギリ詐称にはならない……はず?
自分でも何が何だかよく分からないし、これ以上ティナちゃんに突っ込まれたらどうしようかと思ったが、やがて彼女は大きく頷いた。
「わぁすご~い! よく分からないんですけどきっとすごいギフトなんですね! じゃあ何でそんな魔族みたいな棍棒を使ってるんですか?」
うっ、ティナちゃんに悪気はないのだろうが、無邪気な言葉が胸に刺さる。やっぱり棍棒って魔族みたいな武器なんだ……。
「それはね、買いにいった武器屋で聖剣が品切れだったから仕方なくよ」
ま、まあ売ってもらえなかったという意味では品切れというのも必ずしも嘘ではない……のかも?
「それは残念でしたね。ああ良かった~、どんな人を紹介されるのか不安だったんですけど、お姉さんみたいな人とパーティーが組めて」
「ええ、私もティナちゃんみたいな素直で純真無垢な子とパーティーが組めそうで嬉しいわ」
良かった、”
が、その時だった。
不意に言いようのない寒気を感じて顔を上げると、そこにはなぜか邪悪な笑みを浮かべたティナちゃんの顔があった。あれ、おかしいな、さっきまであんなに天使のようなかわいらしい笑顔だったのに。同一人物なのにここまで雰囲気が変わることってあるのだろうか? 私がそんな風に思っていると。
「本当に良かった~、お姉さんみたいな自分では演技がうまいと思ってる、弄び甲斐がある人とパーティーが組めそうで」
「……え?」
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