狂戦士と冒険者ギルド2
「こほん、話は逸れてしまいましたが、シルフィア様はパーティー結成を希望しますか? それであればパーティー募集の書類も同時に作成いたしますが」
「う~ん、いきなり知らない人と組むのもな……」
そう言えば冒険者はパーティーを組んで活動することが多いらしい。私のような攻撃力タイプに加え、防御・探索・攻撃魔法・回復魔法など別なものを得意とするメンバーを3~5人ぐらい集めて組むことが多いとか。
とはいえ私にはそんな知り合いはいないし、いきなり見ず知らずの人と組むのはちょっと怖い。
「とはいえシルフィア様も冒険者の経験はないですよね? でしたら経験がある方と組んだ方がスムーズではないかと。こちらから向いてそうな人を紹介することも出来ますし、逆に悪評があるような方から組みたいと言われればこちらで拒否することも出来ますし」
「じゃあお願い」
確かに不本意ながら力はありあまっているので今の私に足りないものは経験だろう。正直、今まで私が接してきた人はそれなりの家柄がある人もしくはその使用人ばかりだったのでうまく接せるか不安ではあるけど。
「では強さの目安にしますので力の測定をさせてください」
「はい」
出た、力の測定! 冒険者物の英雄譚だと主人公は序盤で力の測定を受けることが多い。平凡な暮らしをしていた主人公がそこでありあまる力を発揮して周囲に驚かれて有名になる、というのが定番の展開だ。
「ではこちらへどうぞ」
とはいえ私の場合はすでに悪い意味で有名になってしまっている。ここで本気を出しても「やっぱり」となるだけだろう。ということは逆にここで微妙な結果を出せば、「あの噂は大袈裟だった」「やっぱり尾ひれがついてただけ」「所詮“狂戦士(バーサーカー)”といえどもかわいいお嬢様に過ぎない」という評判になるかもしれない。
これは私の可憐な冒険者デビューの最後にして最大のチャンスと言えるだろう。どうにかしてこのチャンスをものにしなければ。
「よしっ!」
「ふふっ、気合十分ですね」
決意を固めていると私はギルドの裏手に案内される。そこは訓練場のような場所なのだろう、貸出用の武器や人型のかかし、飛び道具の的などが置かれていた。
「ではこちらのかかしを思いっきり殴ってみてください」
「は~い……よいしょ」
私はあえて重そうな振りをしながら棍棒を振り上げる。悲しいことに”
「どうしました?」
「あっ、やっぱり私にはこれちょっと重いです~」
「え、本当ですか? あのゴルドさんが選んでそんなことはないと思いますが……」
私の演技に困惑するミレーヌ。よし、これなら騙せる。
そう思った私がよろよろと棍棒を振り上げた時だった。
『おおシルフィアよ、神から授かったギフトをきちんと生かしているようだな』
突然忘れもしない、にっくき大司教の声が脳裏に響く。
かと思うと、かかしが立っていたと思われる場所には忌まわしい白髭の老人が立っていた。それを見て私の脳裏にあの日以来受けた様々な屈辱が蘇ってくる。
そうだ、確かに直近のことはおおむねゴルドのせいだけど、元はと言えば全部こいつのせいだ。こいつがもっと私にふさわしいギフトをくれていれば。
なのに目の前の大司教はいかにも自分がいい仕事をした、と満足げな表情を浮かべていて、それを見ていると胸の奥からどす黒い感情がこみあげてくる。
「うるさい、よくも私の人生をめちゃくちゃにしてくれたなあああああっ!?」
ぐちゃっ
咆哮をあげると同時に棍棒に気持ちいい手ごたえが訪れる。
気が付くと目の前に立っていたはずのかかしは棍棒と地面に挟まれてぺちゃんこになっていた。
「はぁ、はぁ、え、何これ……?」
幸か不幸か一瞬姿を見せた大司教の姿は消え、地面にめりこんだかかしだけが残っている。
何が起こったのか分からず呆然としている私の後ろでミレーヌが驚きの声をあげた。
「さ、さすが”
言われてみると、今は真ん中でぽっきり折れてしまっているかかしを支えていた棒は棍棒と同じ素材で出来ている。とはいえ私が知りたいのはそんなことではない。
「だから何なのよこれっ!? 絶対変な仕掛けがあったよね!?」
「はい、実はこのかかしは冒険者様のポテンシャルを発揮するために”一番敵意を感じている存在の幻覚を見せる魔法”がかかっているんです!」
「はぁ、何それ聞いてないんだけど!?」
こんなところにそんな高度な魔法使わないでよ!
急にあの大司教が目の前に思われたからついつい本気を出してしまったじゃない!
が、そんな私の叫びにミレーヌは澄ました顔で答えた。
「そりゃあ、種が分かっていたら冒険者様のポテンシャルが引き出せないじゃないですか」
「そりゃそうだけど、くっ……!」
普通は冒険者のポテンシャルを引き出すのはいいことなので何も反論出来ない。
「とにかく、この実力であればこちらも自信を持ってメンバー募集をすることが出来ます」
「はい……」
うきうきしたミレーヌと違って私は肩を落としながらギルドへと戻る。
「早速シルフィア様の募集案内なのですが……」
そう言ってミレーヌは嬉々としてパーティーメンバー募集の書類を書き始める。
絶対嫌な予感がする、と思いつつも確認しない訳にはいかない。
彼女の手元をのぞき込むと……
『パーティーメンバー募集中
“最狂の破壊神”シルフィア・ローレンティア
性別:女 年齢:16 ギフト:”
タイプ:攻撃型 使用武器:棍棒
備考:冒険者経験はないがその攻撃力は圧倒的で、実力は担当者が保証する。魔法・探索に長けたギフト持ちの冒険者求む』
「一体何なのよこの“最狂の破壊神”って!?」
ただでさえギフトと武器のせいで蛮族感がすごいのにこんな二つ名つけちゃだめでしょ!?
「今世間で出回ってる二つ名がお気に召さないようだったので私の方で格好いいのをつけておきました」
「いやいや、これが格好いいって完全に男子の黒歴史のセンスだよ!」
「そうですか? まず“最狂”は“最強”とかけていて、圧倒的な破壊力を表すにはやっぱり“神”が適切かなと」
「全然適切じゃないしそもそも二つ名なんていらないんだけど!?」
あとそんな無駄な言葉遊びもいらない!
「はぁ、パーティー募集は目を引く方がいいので。それに他の方は結構喜んでくれたんですが……」
嘘でしょ? このギルドの冒険者は十代前半の男しかいないの? 絶対大人のセンスじゃないと思うんだけど!?
とはいえミレーヌは本気で落ち込んでいるようで、それを見ると若干申し訳なく思えてくる。それに、正直今更二つ名程度で私のイメージがどうにかなるとも思えない。
「分かった分かった、いったんはこれでいいから」
私がそう言うとミレーヌの顔がぱっと輝く。
「わぁ、そう言ってもらえて嬉しいです! 私の方でもシルフィア様に釣り合うメンバーがいたら声をかけておきますので」
「うん、よろしく」
やはり全てはミレーヌなりの善意でやってくれたことだったらしい。
とはいえ一刻も早く仲間を見つけて“最狂の破壊神”の募集貼り紙は外してもらおう、と私は内心決意するのだった。
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